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「……僕を試したのかい?」
「まさか。嘘は吐いていませんよ」
ふふ、と笑みを零すカクレに問う。
彼女は否定こそしたものの、僕の失礼な問い掛けに反発する様子はない。
告げた言葉は真実でこそあれ、僕の動揺も織り込み済みであったということは明らかだった。
時折この仙人は、悪戯のように子供じみた真似をする。
仕方ないなと間を置いて、僕はカクレに真意を問うた。
「何故、いきなりそんなことを言ったんだい?」
「いえ、本当に好奇心で言ったのです。説明をしたいので、先程の感想を教えていただけますかな?」
にっこりと微笑むカクレ。
掌で転がされているかのような状況に、軽い敗北感を覚えつつ。
僕はぼんやりと先程覚えた感情を思い起こし、言葉にしていった。
「そうだな……。何事かと思った。ドキリとした。そんな風に思わせる何かがあったかと考えてみた。後は……」
もし、カクレが此処に来なくなったら。
そう考えて不安になったことも、言葉にして伝えるべきなのだろうか。
逡巡し、言葉が続かずにいると。
彼女は満足げにニヤリと笑った。
「成る程。やはり、ですな」
「……どういうことかな?」
彼女の説明に必要な情報は、もう出揃ったということだろうか。
率直に疑問を言葉にすると、彼女はファサリと墨色の長髪を掻き上げ、僕を見上げた。
「『ドキリとした』。君はそう言いましたが……一体『何処が』ドキリとしたと言うのですかな?」
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