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「僕にはないなぁ」
一つ一つ丁寧に思い起こしながら、僕はきっぱりと断言する。
「プーさんスーさん達とも離れているし、自分の葉っぱと交信もできないし。鳥が僕の枝で羽休めしていくのを見守ったり、通りを行く人間や猫を眺めたりすることはあるけれど……ね」
「そう、ですか……」
カクレはその言葉を聞いて、考え込むように黙る。
様々な他者と交流できる、物語の主人公に比べて、交流相手の少ない僕への同情だろうか。
──なんて。
そう思っていたのは、どうやら勘違いであったようで。
「もしかしたら、と思ったのですよ。君も、私の知らない言葉や、交信方法を知っていて、別の存在と何らかの交流をしているのではないかと」
カクレは仮説を棄却して、なお微笑む。
その、少しだけ憂いを帯びたような、それでいて曇りをあまり感じさせない透き通った笑みに、僕は不思議な直感をした。
彼女は、僕の正体を知ろうとしたのだろうかと。
僕の交友関係に興味を示したのだろうかと。
自惚れるならば──僕のことを知りたかったのだろうか、と。
「ふふ」
笑声が思わず零れる。
カクレはきょとんとした顔で僕を見詰める。
「可笑しいことでもありましたかな?」
「どうだろうね」
僕が回答をぼかすと、彼女は少し不服そうに頬を膨らませて見せた。
妹じみた幼い行動も、意味が分かれば愛おしい。
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