春の章*問わず語り【続いていく物語】

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 僕は人間ではない。  カクレもプラタナスの木ではない。  違うことばかりで。  二人を繋ぐ言語が、二人を正確に表しているのかすら、完璧に把握する手段もない。  だから僕は、彼女のことを知りたがる。    彼女が何を考えているか。  何が好きで、何が嫌いか。  これからどう生きていきたいのか。  自分のものであるかのように、カクレに関わる全ての知識を独占したくなる。    恐らくカクレは其処まで思っていないだろう。  好奇心旺盛で、博愛で。  しかし、僕達が異なる存在である限り、分かり合うことができない限り、彼女は僕に興味を持ち続けてくれるのだろう。 「僕の心情を完璧に表すのは、プロの作家でも超能力者でも難しいかもしれないね」 「本当に、そうですな」 「それでも良いよ。僕が話すのも、言葉を覚えるのも、僕のことを一番知っているのも、カクレだけだ」  それで良い。  それが良い。    今日も。  来週も。  来月も、来年も。  君の興味が尽きなければ、それで。  ぼかして笑えば、カクレは少し困ったように眉を下げてから、いつものように満面の笑みを浮かべた。    風が吹いて、僕の黄緑に輝く葉を揺らす。  少し湿った土の匂いを孕んだ風は、間もなく雨の季節が到来することを、僕達に(ささや)きかけていた。 〈了〉
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