38人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
僕は人間ではない。
カクレもプラタナスの木ではない。
違うことばかりで。
二人を繋ぐ言語が、二人を正確に表しているのかすら、完璧に把握する手段もない。
だから僕は、彼女のことを知りたがる。
彼女が何を考えているか。
何が好きで、何が嫌いか。
これからどう生きていきたいのか。
自分のものであるかのように、カクレに関わる全ての知識を独占したくなる。
恐らくカクレは其処まで思っていないだろう。
好奇心旺盛で、博愛で。
しかし、僕達が異なる存在である限り、分かり合うことができない限り、彼女は僕に興味を持ち続けてくれるのだろう。
「僕の心情を完璧に表すのは、プロの作家でも超能力者でも難しいかもしれないね」
「本当に、そうですな」
「それでも良いよ。僕が話すのも、言葉を覚えるのも、僕のことを一番知っているのも、カクレだけだ」
それで良い。
それが良い。
今日も。
来週も。
来月も、来年も。
君の興味が尽きなければ、それで。
ぼかして笑えば、カクレは少し困ったように眉を下げてから、いつものように満面の笑みを浮かべた。
風が吹いて、僕の黄緑に輝く葉を揺らす。
少し湿った土の匂いを孕んだ風は、間もなく雨の季節が到来することを、僕達に囁きかけていた。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!