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はじめまして
(スピンオフ作品のキャラが出てます)
スピンオフ作品▶ https://estar.jp/novels/25532852
周りから聞こえる声はすべて外国語で、謙吾の不安が大きくなる。アナウンスも英語のため、何もわからない。
たくさんの人が行き来する空港を歩きながら、もっと英語を勉強しておけばよかったと後悔した。これから本格的に勉強しよう、と心に固く誓う。
約束の場所に近づきながら、従兄弟の姿を探す。指定された場所のはずなのに、いくら探しても、そこに従兄弟はいなかった。
どうしよう、連絡したほうがいいかな……と不安が大きくなる中、背の高い男性が目に入る。見たことがある気がして、少し遠くから眺めながら、記憶をひっくり返す。
立派な体格、整った顔、目を引き寄せられる感じが、エヴァンに似ていた。ただ、爽やかなエヴァンの色気に比べて、この人はもっと、本能を揺さぶるような濃い色気を放っている。
そこで、もしかしてエヴァンの親友か、と気づいた。迎えに来られないエヴァンから、汐月と自分の親友が迎えに行く、と連絡を受けている。恋人同士である彼らは、日本とこの国を行ったり来たりしているらしい。
確証はないし、なにより怖かった。エヴァンのイケメンオーラにだって慣れたのは最近なのに、男前オーラを放つ彼は、住む世界が違く見えて、近づこうとさえ思えない。
やっぱり汐月に電話をかけよう、と携帯に手を伸ばしかけた時、エヴァンの親友らしき人がこっちを見た。しっかり視線が合って、彼が何かに気づいたようにこちらに来る。
うわ、どうしよう、と動揺する謙吾の目の前で止まった。
「Are you Kengo?」
よく考えれば当たり前だが、英語で話しかけられてますます動揺する。
慌てて首を縦に振れば、その人は手を出てきた。反射的に握手を交わすが、何かを話す彼の言葉はわからなくて、心臓が痛くなる。
「謙吾!」
その時、知っている声が聞こえた。すぐに一人の男性が、目の前の彼の隣に立つ。
「汐月!」
久しぶりの従兄弟が救世主のように輝いて見えた。
「久しぶり」
「え、うわ」
従兄弟に抱きしめられて驚く。身体を固くする謙吾に気づいたのか、汐月は慌てたように身体を離した。
「ごめん、つい癖でハグしちゃった」
苦笑する汐月は、すぐに隣に顔を向ける。
「それよりリアム、英語で話しかけてたよね?」
「バレたか」
にやりと笑う男性の口から出たのは流暢な日本語で、謙吾は目を見開いた。
「あまりからかうとエヴァンが怒るよ」
「それは困るな」
困るなと言いつつ、彼は愉快そうだ。二人の話す様子からは仲の良さがうかがえた。エヴァンの親友は、先程までの隙のない雰囲気から、柔らかな表情に変わる。
「俺はリアム。エヴァンの親友で、君の従兄弟の恋人だ。よろしくな」
恋人という言葉に照れたのか、汐月が視線を逸らす。それをちらりと見たリアムは楽しそうで、謙吾は「よろしく」と言いながら小さく笑った。
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