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※軽度の暴力表現があります。 「あの……もう少し離れて歩きませんか?」 「ああ、ごめん。君が怖がっているかなと思って。もう少しだからこのままで行こうよ」  男性の唇がにやりと弧を描く。柔らかな微笑みの中に危険な色を感じて、肌が粟立った。  汐月は足を止める。 「やっぱり俺、帰ります。予定があるのを忘れてました」 「少しくらい大丈夫だろう? 助けてあげたんだからさ、一緒に楽しもうよ」 「いや、本当にごめんなさい。助けてくれてありがとうございました」  そう言って離れようとした時、男性が抱きついてきた。深く抱きしめられて硬直する。 「っ……! やめろ!」  すぐに胸を押し返すが、びくともしなかった。再び、やめろ、と叫ぼうとしたが口を手で塞がれてしまう。 「んんー!」 「しーっ、いい子だから静かにしてね。大丈夫、優しくするから」  いつの間にか男性は呼吸を荒くしていて、気持ち悪さと恐怖が身体を走る。  しかし、汐月の尻を撫でた男の手はすぐにぴたりと止まった。 「シヅキに触るな」  聞き慣れたはずの、しかし聞いたことがないほどの怒りを携えた声がした。  男性と同時に顔を動かすと、すぐそばに立つリアムが目に入る。汐月が目を見開くのと同じように男性も驚いて、一瞬身体が離れる。  その瞬間を狙ったかのように、リアムが腕を振った。  大きく引いてから突き出された手が男性の顔に当たる。ゴッと鈍い音と共に男性は吹き飛んだ。 「ぐっ!」  男性が地面に倒れた状態で呻く。リアムは呆然とする汐月の前を通り、静かに男性に近寄る。  リアムは躊躇なく男性の腹を蹴った。高級そうな靴が腹にめり込んだ男性は、痛みに悲鳴をあげる。 「うるさい」  すぐにリアムが男性の顔を踏みつけた。ぐりぐりと地面に押し付け、男性の声がくぐもる。 「リアム……やめて……」  汐月は震える声で止めた。途端にリアムの動きが止まる。それでもそこから動こうとしないため、彼の腕を引く。 「ごめん……俺のせいだ……俺が気をつけてなかったから……」 「シヅキは悪くない。どうせ騙されたんだろう? 騙すほうが悪い」  リアムがもう一度男性の腹を蹴りあげる。男性は身体を丸めて声にならない息を出した。 「もういいから……行こう」  リアムの腕をもう一度引く。今度は動いてくれたため、そのまま道を戻る。  震える足を何とか動かして大通りに出ると、いつもの高級車が停まっていた。  運転手がドアを開けている車にリアムを押し込む。  手を離そうとした時にリアムが力強く握ってきて、汐月も車の中に引きずり込まれてしまった。 「シヅキ」  リアムに抱きかかえられる形で座らせられる。手が腹に回り、ぎゅうっと抱きしめられた。 「シヅキ」  何度も名前を呼ぶリアムが髪に鼻を擦り寄せてくる。それは甘えるというよりも、まるで迷子のように怯えていた。
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