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高級車に乗せられてたどり着いたのは、大学から十五分ほど離れたレストランだった。昼時にもかかわらず店内は混雑していない。落ち着いた雰囲気は高級感を漂わせている。
いくら一時間半くらい時間が空いているとはいえ、レストランに連れてこられたことに驚く。
「奢るから好きなものを頼め」
メニューの値段に目を見はっていると、正面のリアムがそう言った。
「そんな、悪いよ」
「学生証を拾ってくれた礼だ。気にしないでくれ」
それでも渋る汐月を見て、リアムは勝手に二人分の注文をした。オススメを頼んでくれたらしいが、こっそり値段を確認して冷や汗が出る。
最初こそ困惑と緊張が強かったが、リアムに気さくに話しかけられ、気がつくと楽しく食事をしていた。
リアムとの会話は面白く、途切れることがなくて時間はあっという間にすぎる。
「そろそろ出るか」
「もうそんな時間かあ。すごく美味しかったし楽しかった。ありがとう」
「シヅキが楽しんでくれて嬉しい。今夜また食事に行かないか?」
「行きたい……けど、友達と遊んだりしないの?」
「予定はキャンセルするから大丈夫だ。迎えにいくから住所を教えてくれ」
「予定があるなら別の日でいいよ」
「俺がシヅキと一緒にいたいんだ。シヅキは嫌か?」
一緒にいたいと言われて頬がゆるむ。勝手に住む世界が違うと壁を作っていたが、今はリアムと純粋に友達になりたかった。
「嫌なわけないよ」
リアムの形の良い唇が弧を描く。彼から喜びが移ったように、汐月の顔もほころんだ。
「でも迎えに来てもらうのは悪いよ」
「気にしないでくれ。俺がそうしたいんだ」
そう言われると何も言えなくなってしまう。汐月は大人しく借りている部屋の住所を教えた。
そのあと二人は大学に戻っていったん別れた。
そして夜になると予定時刻ぴったりに運転手付きの高級車が現れ、高級ブランド服を着たリアムの隣に座って店を目指す。
店の情報を聞いても教えてくれず、どきどきしながら着いた先は、高級ホテルのレストランだった。
客が自分たち以外にいないことを口にすると、「貸し切りにした」と軽く言われて目眩がする。
「シヅキ、酒は飲めるのか?」
「いちおう二十歳だから飲めるけど、全然飲んだことなくて……どれがいいのかとかわからないんだ」
「そうか。じゃあ、甘くて飲みやすいワインにしよう」
リアムが注文したワインは本当に飲みやすくて美味しかった。調子に乗ってたくさん飲んでしまい、だんだんと気分がふわふわしてくる。
「大丈夫か? 少し飲みすぎだ」
「ん……」
端正な顔が心配そうにこちらを覗き込んでくる。リアムの手が伸びてきて、指の背が軽く汐月の頬に当てられた。
「リアムはすごいなあ。お金持ちで、イケメンで、なのに気取っていなくて、こんなに優しくしてくれてさ」
「好きになってくれたか?」
「リアムみたいな良い奴、好きにならないほうがおかしいって」
「そうか」
汐月の「好き」は恋愛感情を持った「好き」ではなく、人としての好きだった。
満足そうな顔のリアムに、「俺が女の子だったら付き合いたかったよ」と言うと、リアムは眉を寄せる。
満足気だった顔が残念そうに歪むのが、酔っている汐月にはわからなかった。
汐月が席を立つ時によろめくと、リアムは手を握ってくれた。それは車に乗り込んでもほどけることはなく、部屋に送るまでずっと握られていた。
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