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二人が出会った日以降、リアムは派手な友人たちを放って汐月と行動を共にした。同じ授業があれば隣に座り、休みの日は汐月をいろんな場所に連れていってくれた。
友人たちに遊びに行こうと誘われても汐月を優先してくれて、悪い気もしたが、嬉しかった。
出会ってから三ヶ月もすると、親友のようになれた気がした。それくらい毎日一緒にいて、秘密がないくらいお互いのことを話した。
そのため、リアムに近づきたい人間が汐月に話かけてくるようになるのは、自然なことだった。
「お願い、リアムにパーティーに来るように言ってよ」
「うーん……」
名前も知らない美女が真剣な顔を向けてくる。リアムと一緒にいる姿を見たことがないが、高校が同じだったらしい。
知り合いなら自分で言ったほうがいいよ、と言うと複雑な顔をしていたので、仲が良かったわけではなさそうだ。
「君と同じような頼みをよくされるんだけど、俺から言ってもリアムは聞き流すだけなんだ。だからごめん、力にはなれないよ」
「今回はわからないじゃない。あなたも来ていいから。ね、お願い」
リアムと知り合いだって友達に言っちゃったのよ、と腕に縋りつかれる。「そんなこと言われても……」と困っていると、突然反対の腕を引かれた。
「シヅキ、何をしているんだ」
「リアム……」
リアムの登場に、美女は汐月から手を離して頬を染めた。
こういう表情は何度も見てきた。皆リアムの整った顔と色気を前に、うっとりとするのだ。
「えっと、この人がパーティーに来て欲しいって」
「リアム、久しぶり。明日パーティーするから、よかったら来て。可愛い女の子があなたに会いたいって言ってるの」
「興味がない。行くぞシヅキ」
リアムは突き放すように断った。その声は冷たくて、汐月に対しての声色とは違う。
戸惑いつつも、リアムに手を引かれてそこから離れる。
振り返った先で美女は顔を引き攣らせていた。
「リアム、ああいう言い方はしないほうがいいんじゃないかな」
「なぜだ?」
「嫌な人だと思われちゃうよ……リアムはすごく優しいのに」
「優しくするのはシヅキが特別だからだ。特別な奴以外はどうでもいい」
ふいの言葉に汐月は目を見開く。
優しく話しかける声も、こちらが照れてしまうとろけるような甘い眼差しも、自分がリアムの特別だからだと実感して頬が熱くなる。
親友だと言われているようで嬉しかった。
「そんなことより、今から時間あるか? 映画を観に行こう」
すっかり優しい声色に戻ったリアムが微笑む。
汐月は顔をほころばせてうなずいた。
「うん、行く!」
映画館は空いていた。というか、汐月とリアムしかいなかった。
「これは……」と恐る恐る訊ねると、またしても「貸し切りにした」と答えられて額を押さえる。
チケットも飲み物もすべてリアムが買ってくれた。毎回自分で出そうとするのだが、いつもリアムのペースに飲まれてしまい、気がついたら奢られている。
「この映画観たいって言ったの覚えてくれてたの?」
席についた汐月は隣のリアムに訊いた。今から観る映画は、自分が先日観たいと言っていたものだ。
「ああ。シヅキを喜ばせたかった」
「ありがとう……嬉しい」
些細な会話を覚えていてくれたことが嬉しかった。
微笑んで見つめ合っていると暗くなり、スクリーンに目を向ける。
映画はとても面白かった。
濃密なベッドシーンが流れるまでは。
二人きりの空間に女性の嬌声が大音量で流れて、最初は「気まずいな……」程度だった。しかしあまりにも長くて、顔が熱を持ち始める。
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