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 スクリーンには艶めかしい女性の足と、その上にいる男性が映っている。男性は上半身しか映っていないが、腰を振っているのがわかる動きだった。  早く終わってくれと願い、目を外していると、強い視線を感じて隣を見る。  リアムがじっとこちらを見つめていた。色っぽい瞳が熱を孕んでいる気がして、ごくりと唾を飲み込む。  汐月に向いている顔はいつもと違い、まさにベッドシーンの俳優と同じ表情をしていた。食べたいと訴えているように見えて思わず赤面する。  ふいに手が温かいものに包まれた。自分よりも大きな手にぎゅっと握られる。  戸惑う汐月だったが、リアムはもう顔をスクリーンに向けていて、何も言うことができない。  そこから汐月の胸はドキドキと落ち着かなかった。  映画の内容は頭に入ってこない。隣のリアムの存在と、手の温度に、ずっと胸が高鳴っていた。 「あなたのことが好きなの」  女性のセリフにはっとする。そのセリフは胸にストンと落ちてきて、パズルのピースのようにぴったりはまった。  そうか、俺はリアムが好きなんだ――リアムに恋をしているんだ。そう、気づいてしまった。 ***  リアムへの恋心を自覚したが、恋人になりたいわけではなかった。  リアムが同性を恋愛対象に見ている様子はなかったし、そもそも汐月はあと数ヶ月で日本に帰る留学生だ。  別れの日にすべて諦めるから、今だけは片思いを許して欲しい。そう胸の中で言い訳をして、リアムへの恋心を消せないでいた。 「シヅキ、今夜のパーティーに来てくれるだろ?」  リアムが肩に腕を乗せて顔を覗き込んでくる。今までは気にならなかったその行為も、心臓が跳ねて頬が熱を持ってしまう。 「も、もちろん行くよ。リアムのバースデーパーティーだし」 「嬉しい。十七時に車を向かわせる。すまないが、俺は準備があって迎えには行けない」 「大丈夫だよ。というか、自分で行けるって」 「ダメだ。車を待っていてくれ」 「ん……ありがとう」  ここで遠慮しても意味のないことはわかっているので、大人しく従う。 「ダメだ」という命令のような言葉も、大切に思われているようで嬉しかった。日本のように治安がいいわけではないから、まだこの国に染まりきっていない汐月は、トラブルに巻き込まれそうに見えるらしい。  今日はリアムの誕生日だ。夜に誕生日を祝うパーティーがあるのだが、富豪同士の付き合い等もあるため、リアムは準備に追われて忙しそうだった。 「たいして親しくもない奴らの相手をしなければいけないのは、考えただけでも気が滅入る」 「大変だね。でも、お父さんにキツく言われてるんでしょ?」 「ああ……金持ち同士の繋がりは大切なんだと」 「金持ち同士……俺、本当に行っていいの? リアムみたいな人ばかり来るなら、場違いだと思うんだけど……」 「シヅキがいないと頑張れない。絶対に来てくれ」  真剣な瞳に近くで見つめられて、慌てて何度もうなずいた。 「行く、行くよ」 「ありがとう」  長い睫毛に縁取られた目がふっと細まる。リアムの安心した顔に胸が音を立てた。 「じゃあ、俺はもう行く」 「うん、またあとで」  触れていた体温とリアムの香水の匂いが離れてしまい、寂しくなる。  一緒にいたいという思いが胸にチラついて、慌てて頭を振った。  迎えの高級車が停まったのは、高級ホテルの前だった。まさかホテルでやるとは思わなかったため、戸惑いながら運転手に訊く。 「ここで合ってます……よね?」 「はい。こちらが会場でございます」  私服で大丈夫だとは言われていたが、いちおうリアムに貰った高級ブランドの服を着ていて正解だった。  運転手に礼を言ってホテルに入る。  案内を受けて会場に入れば、すでに大勢の人がいた。  広い会場には大学内で見かける顔もいた。リアムが誘ったとは思えないから、どうやら誰でも入れるようだ。
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