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「あら、あなたも来てたのね」  声がしたほうを向くと、先日リアムをパーティーに誘った美女がいた。胸元の開いたシックなワンピースを着ており、どこを見ていいかわからなくて視線をさまよわせる。 「主役ならあそこよ」  彼女が顎で示すほうを見れば、人々に囲まれるリアムの姿があった。  汐月はリアムの周囲にいる人物を見て、目を見開く。 「あそこにいる人たち、ほとんどが有名人だよね?」 「ええ。私たちが知らない人もきっとお金持ちよ。あそこにいる人たち、全員高級な服やアクセサリーを身につけているもの」 「なんだか……改めて凄い人と友達な気がするよ」 「今さら? あの中でもリアムが一番資産を持っているわよ」 「えっ」  汐月が驚くと同時に、歓声のようなものがあがった。人々の視線を追って入口を見れば、一人の男性が目に入る。 「あれエヴァンよね?」  隣の美女が興奮したように汐月の腕を叩いてくる。それが気にならないくらい汐月も驚いていた。  優雅な足取りで歩く男性は、今注目の若手俳優だ。微笑を浮かべるその顔は、リアムと引けを取らないほど整っている。  清楚な中にもかすかな色気が浮かんでいる。濃厚な色気をまとうリアムとは違うが、端正な顔立ちと、立派な体格という点は同じだった。 「エヴァン、来てくれたのか」  リアムが人の輪から抜けてその男性――エヴァンに近づく。 「久しぶりだな、リアム」  二人は笑顔でハグをした。リアムが珍しいほど笑っていて、汐月は胸を突かれたような衝撃を受ける。 「こんなに大勢の人に祝ってもらえて良かったな。友達が増えたんじゃないか?」 「親友はお前だけだ」 「はは、嬉しいよ」  聞こえた会話に心臓が嫌な音をたてた。足元から冷たいものが上がってきて、身体はどんどん冷えていくのに頭は熱くなっていく。  二人は奥の方へと歩いていった。周囲に人が集まり、すぐに見えなくなる。 「やっぱりエヴァンが親友だって噂は本当だったのね」  高揚した声で美女が言った。そしてすぐにリアムたちの後を追って汐月から離れていく。  一人取り残された汐月は、呆然としたまま足を動かす。  今すぐこの場から離れたかった。  ドクドクとやけに大きく心臓の音が聞こえる。歩いていないと膝から崩れ落ちそうで、足早に人の間を進んでホテルから出た。  頭の中にリアムの笑顔がこびり付いている。  エヴァンに対するリアムは、汐月の知らない彼だった。  よく考えたら当たり前だ。リアムと知り合ってまだ一年もたたないのだ。  当たり前だったのに。  唇を噛みしめて歩を進めていると、数メートル先に車が停まった。  見慣れた高級車。何度も世話になっている運転手が降りてきて、ドアを開ける。 「お送りします」  初老の運転手がドアを開けて待っている。  それでも汐月が黙って立っていると、もう一度静かに口を開いた。 「あなたを黙って見送ったとなると、リアム様に叱られてしまいます」 「っ……お願いします」  リアムの名前を出されて、目頭が一気に熱くなった。それを悟られないように車に乗りこむ。
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