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 リアムの横を通り抜けようとした。が、力強い手に腕をつかまれて、引っ張られた。予想外な出来事にふらついた身体は、いとも簡単に壁に追いやられる。  驚いていると顔の両側にリアムが手をついてきて、壁とたくましい身体の間に閉じ込められた。 「シヅキをここに呼び出したのは俺だ」 「え……?」 「俺が教授に頼んだ。俺から連絡してもシヅキは会ってくれないだろう?」  何も言えなくて俯く。  リアムの息遣い、近くに感じる体温、匂い、声、すべてが胸を熱くして、それと同時に切なく締め付けた。 「なぜ最近会ってくれない? シヅキに何かしてしまったか? 嫌な思いをさせたなら言ってくれ」 「リアムはなにも悪くないよ……問題があるのは俺で……」 「何の問題があるんだ。困っているなら力になりたい」  相変わらず優しい。だが、これ以上に親友には優しいんだろうな、と思ってしまう自分がいて嫌になる。  しょせん俺は友達の一人だ。  親友の存在を知ってからリアムを独占したい気持ちが生まれ、それを必死に消そうとしていたのに。優しくされると、その優しさに縋りつきたくなってしまう。 「何だかホームシックみたいでさ……あまり元気が出ないんだ」  嘘が口から滑り落ちて、罪悪感を顔に出さないようにする。 「……日本に帰りたいか?」 「うん……帰りたい」 「俺を置いて?」 「え?」  思わず見上げた顔は切なそうに歪んでいた。汐月は動揺して、その整っている顔をじっと見てしまう。  そこでピピピと着信音が鳴った。リアムは眉を寄せて携帯を取り出し、耳に当てて短い会話をしたあと切った。 「すまない、もう行く」  リアムの手が汐月の頬に触れた。両手で頬を挟まれて、ぐっと顔を寄せてくる。  端正な顔は吐息が触れ合う近さで止まった。 「今夜二十時に迎えに行く。待っていてくれ」  そう囁いた彼は、まるで名残惜しいかのように汐月の頬を優しく撫でてから部屋を出ていった。  身体から力が抜けて、汐月はへなへなと座りこむ。壁に背中を預け、ゆっくり自分の頬に両手を当てた。  先ほどまでリアムが触れていた箇所はまだ熱を持っている。  大好きな人の残り香に包まれながら、こびり付いているリアムの手のひらの感触に苦しくなった。視界がじわりと滲んで、瞬きをすると涙が頬を滑り落ちる。 「好きだ、リアム」  これを伝えてしまったら友達には戻れない。  本心を隠して笑い合ったほうがいいのか、想いを伝えたほうがいいのか、今の汐月にはわからなかった。
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