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リアムが目的地を告げていないのに車は発進した。
しばらく走り、とあるマンションの駐車場で停まる。
リアムは抱きしめるのをやめてくれたが、無言で手を握って車を降り、マンションに入った。
汐月が手を引かれるままについていくと、最上階の部屋に到着する。
リビングからは綺麗な夜景が一望できた。高いところから眺める景色に感嘆のため息が出る。
そのまま立っていた汐月の身体が温もりに包まれる。リアムに正面から抱きしめられた。
「怖い思いをしたのにすまない……今はこうさせてくれ」
「リアムなら怖くないから平気だよ。助けてくれてありがとう」
あの時感じた嫌悪感や不快感は一切感じなくて、むしろ想い人に抱きしめられて胸が高鳴る。リアムの匂いや体温にドキドキしつつも何だか落ち着いて、ああ、やっぱり好きだなあ、とたくましい背中に遠慮がちに手を回した。
「シヅキが怖い思いをさせられて、怒りでどうにかなりそうだ」
ぎゅうっとリアムの腕の力が強くなる。親友じゃなくても大切にされているのが伝わり、嬉しかった。
「リアムは本当に優しいね」
「前にも言ったが、優しくするのは汐月が特別だからだ」
「でもエヴァンのほうが」
特別でしょ?
思わずそう聞こうとして口を閉じる。こんな時にまで嫉妬している自分が嫌になる。
「エヴァンのほうが何だ?」
「いや、何でもないよ」
「シヅキ、何を言おうとした? 教えてくれ」
意外にもリアムは焦ったように汐月の肩に手を置き、顔を覗き込んできた。精悍な顔が懇願するように必死さを浮かべる。
「エヴァンが好きなのか?」
「いや、そういうのじゃないよ」
「なら教えてくれ」
エヴァンの名前にここまで反応するとは思わなくて戸惑う。
困って俯いた汐月の顔をリアムの手が掬い上げ、縋るような瞳と視線を合わせられる。
「頼む、言うことを聞いてくれ。俺はいま不安定なんだ。シヅキに酷いことをしたくない」
「酷いこと?」
助けてくれた時の暴力が頭をよぎった。リアムはそれがわかったのか、頭を左右に振る。
「違う、シヅキに暴力をふるったりしない。ただ、シヅキが俺に服従するまでめちゃくちゃに抱いてしまいそうだ」
「えっ、俺じゃ勃たないでしょ」
リアムがグッと下半身を押し付けてきた。そこは明らかに硬くなっていて、汐月は目を見開くと共に赤面する。
「な、なんで……」
困惑して瞬きを繰り返す。口をぱくぱくと動かすが言葉が出てこない。
リアムは切なそうに眉を寄せて、こちらが照れてしまうようないつもの甘い瞳で、しっかりと汐月を見つめる。
「好きだ、シヅキ」
汐月の時が止まる。その言葉はそれほどまでの衝撃を与えた。とろけるような眼差しと優しい声で、それが嘘じゃないとわかる。
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