3

1/2
2032人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ

3

 汐月はリアムを避けるようになった。大学ではできるだけリアムに会わないように行動し、遊びに誘われても断った。  普通の友達に思えるまでは距離を置こう。そう思っていた。このままではいつまでもリアムを好きでいてしまう。好きでいると、今までにはなかった『自分が一番になりたい』という欲望が頭をもたげてしまう気がした。  タイミングよくリアムは近頃忙しいようで、大学で見かけなくなり、連絡も以前ほど来なくなって助かった。  見かけるたびに高そうなスーツを着ていて、噂では父親の仕事を手伝っているらしかった。  あんなに毎日一緒にいたのが幻のようだ。  呆気なく離れることができて、安堵の気持ちと切ない気持ちが混ざり合う。 「君、これを私の研究室に置いてきてくれるかい?」  講義が終わって教室を出ようとした時に、教授が声をかけてきた。まだ返事をしていないのに資料の束を押し付けられる。 「は、はい」 「ありがとう」  教授は急いでいるのか、研究室の場所を告げて足早に部屋から出ていった。  汐月は戸惑いながら資料を抱え直し、言われた場所へと足を進める。  廊下をゆっくり進む。土曜日に講義を受ける生徒は少なく、あたりには人がいなかった。  窓から見える中庭に目を向けて、あともう少しでこの景色を見られなくなるのかと思うと、寂しさがじわりと胸に滲む。  まわりの景色を目に焼き付けるようにしながら歩いた。そして目的の場所へたどり着く。 「失礼します……」  いちおうノックをしてからドアを開けた。  室内には誰もいなくて静まり返っている。初めて足を踏み入れた場所にわずかに緊張しながら、好奇心のままに部屋を見渡した。本棚とテーブルに大量の専門書が並んでいる。  きょろきょろとしながら部屋の中央にあるテーブルに近づく。そっと資料を置いた瞬間、ドアの開く音がした。  教授が入ってきたのかと思って振り向いた先に、上質そうなスーツに身を包んだリアムが立っていて目を見開く。 「リ、アム」  汐月の呟きが部屋に落ちる。  そのまま動けないでいると、リアムが無言で目の前まで来た。  久しぶりにリアムの香水の匂いが鼻先に触れて、恋心が一気に膨らむ。想いが溢れてしまいそうで慌てて視線を逸らした。 「教授に用事があるの? 残念だけど、今はいないよ」 「知っている」 「そう……じゃあ、また」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!