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汐月はリアムを避けるようになった。大学ではできるだけリアムに会わないように行動し、遊びに誘われても断った。
普通の友達に思えるまでは距離を置こう。そう思っていた。このままではいつまでもリアムを好きでいてしまう。好きでいると、今までにはなかった『自分が一番になりたい』という欲望が頭をもたげてしまう気がした。
タイミングよくリアムは近頃忙しいようで、大学で見かけなくなり、連絡も以前ほど来なくなって助かった。
見かけるたびに高そうなスーツを着ていて、噂では父親の仕事を手伝っているらしかった。
あんなに毎日一緒にいたのが幻のようだ。
呆気なく離れることができて、安堵の気持ちと切ない気持ちが混ざり合う。
「君、これを私の研究室に置いてきてくれるかい?」
講義が終わって教室を出ようとした時に、教授が声をかけてきた。まだ返事をしていないのに資料の束を押し付けられる。
「は、はい」
「ありがとう」
教授は急いでいるのか、研究室の場所を告げて足早に部屋から出ていった。
汐月は戸惑いながら資料を抱え直し、言われた場所へと足を進める。
廊下をゆっくり進む。土曜日に講義を受ける生徒は少なく、あたりには人がいなかった。
窓から見える中庭に目を向けて、あともう少しでこの景色を見られなくなるのかと思うと、寂しさがじわりと胸に滲む。
まわりの景色を目に焼き付けるようにしながら歩いた。そして目的の場所へたどり着く。
「失礼します……」
いちおうノックをしてからドアを開けた。
室内には誰もいなくて静まり返っている。初めて足を踏み入れた場所にわずかに緊張しながら、好奇心のままに部屋を見渡した。本棚とテーブルに大量の専門書が並んでいる。
きょろきょろとしながら部屋の中央にあるテーブルに近づく。そっと資料を置いた瞬間、ドアの開く音がした。
教授が入ってきたのかと思って振り向いた先に、上質そうなスーツに身を包んだリアムが立っていて目を見開く。
「リ、アム」
汐月の呟きが部屋に落ちる。
そのまま動けないでいると、リアムが無言で目の前まで来た。
久しぶりにリアムの香水の匂いが鼻先に触れて、恋心が一気に膨らむ。想いが溢れてしまいそうで慌てて視線を逸らした。
「教授に用事があるの? 残念だけど、今はいないよ」
「知っている」
「そう……じゃあ、また」
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