犬探偵藪やぶ犬 その3

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犬探偵藪やぶ犬 その3

 歩いていると、神社の方から、「ピーヒャラピーヒャラ」と風に乗って笛の音が聞こえてきた。 「お祭りかな」 「お祭りですね」  探偵はフンフンと鼻を利かせる。 「何か匂いますか?」 「焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、焼き鳥、綿あめの甘い匂い……」  完全に祭りの屋台。 「時間があったら行ってみたいです」 「事件が解決すればな」 「じゃあ、今日中にお願いします」  依頼人のマダムの家に立ち寄り、現場を見た。  かなり高い塀に囲まれていて、門扉は鉄柵。入れるとしたら、ここからしかない。 「ここで倒れていました」  倒れていた場所は、門扉から数歩離れている。 「門扉の隙間から毒エサを入れられ、それを食べたパフィちゃんは、苦しみながら家に戻ろうとしたが、途中で力尽きて倒れたんだな」  探偵は、何度か鉄柵の隙間から手を通そうとしたが、狭くてどうしてもひっかかる。 「この幅では、手は通らない」 「私の手なら入りますね」  ケーナの手なら小さくて通る。  探偵は、フンフンと鼻を利かせながら門の周辺を何周も歩いた。  それを見ていたマダムは、口に出さないが、(やっぱり、犬じゃない)と心の中の声が聞こえてきそうな顔になる。  ご近所での聞き込みを開始。  まずは、同様の被害が出ていないか調べる。 「お宅では犬を飼っていますか?」 「いいえ」  一軒ずつ訪ねて回る。  ある家で、幼稚園ぐらいの小さな女の子が出てきた。 「あー! ワンちゃんだ!」と、探偵を指さした。  探偵は、腰を低くして女の子と同じ目線になると優しく言った。 「お嬢ちゃん。あっしは人間なんですよ」 「そうなんだ。チョコレート、あげる」  子供は、素直。 「ハハハ。ありがとう。今は仕事中だから、あとで食べるね」  小さなチョコの欠片を貰うと、食べずにポケットに入れた。  数軒回ったところで、ついに情報を得た。 「うちの子も、一週間ほど前に大変だったわ」 「お宅でも、ワンちゃんが毒らしきものを食べたというんですか?」 「そうなの。庭に繋いでいたんだけど、ふと見ると泡を吹いて苦しんでいて、慌てて病院へ連れて行って胃洗浄をしてもらって、なんとか一命を取り留めたの。あれから怖くて室内飼いに変えたのよ」 「室内なら、安心ですね」  探偵はフンフンと鼻を利かせる。 「何をしているんですか?」 「犯人の痕跡を探しているんですよ」 「やっぱり、犬なんですね」  この家の主婦も、薄々気付いていたようだ。 「いえ、あっしは人間です」 「あっし?」 「どうもありがとうございました」  終わると、礼を言って立ち去る。  探偵のフサフサ尻尾が左右に大きく揺れている。  これは、機嫌がよい証拠。 「何かわかったんですか?」 「ああ。わかった」 「犯人が?」 「そうだ」  何も気づかなかったケーナには、そんな簡単に犯人が見つかるなんて、とても信じられない。 「では、誰が犯人ですか? 動機は?」 「マダムのところに戻って、まとめて説明するよ」  教えてもらえないまま、マダムの家に行く。
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