56人が本棚に入れています
本棚に追加
犬探偵藪やぶ犬 その3
歩いていると、神社の方から、「ピーヒャラピーヒャラ」と風に乗って笛の音が聞こえてきた。
「お祭りかな」
「お祭りですね」
探偵はフンフンと鼻を利かせる。
「何か匂いますか?」
「焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、焼き鳥、綿あめの甘い匂い……」
完全に祭りの屋台。
「時間があったら行ってみたいです」
「事件が解決すればな」
「じゃあ、今日中にお願いします」
依頼人のマダムの家に立ち寄り、現場を見た。
かなり高い塀に囲まれていて、門扉は鉄柵。入れるとしたら、ここからしかない。
「ここで倒れていました」
倒れていた場所は、門扉から数歩離れている。
「門扉の隙間から毒エサを入れられ、それを食べたパフィちゃんは、苦しみながら家に戻ろうとしたが、途中で力尽きて倒れたんだな」
探偵は、何度か鉄柵の隙間から手を通そうとしたが、狭くてどうしてもひっかかる。
「この幅では、手は通らない」
「私の手なら入りますね」
ケーナの手なら小さくて通る。
探偵は、フンフンと鼻を利かせながら門の周辺を何周も歩いた。
それを見ていたマダムは、口に出さないが、(やっぱり、犬じゃない)と心の中の声が聞こえてきそうな顔になる。
ご近所での聞き込みを開始。
まずは、同様の被害が出ていないか調べる。
「お宅では犬を飼っていますか?」
「いいえ」
一軒ずつ訪ねて回る。
ある家で、幼稚園ぐらいの小さな女の子が出てきた。
「あー! ワンちゃんだ!」と、探偵を指さした。
探偵は、腰を低くして女の子と同じ目線になると優しく言った。
「お嬢ちゃん。あっしは人間なんですよ」
「そうなんだ。チョコレート、あげる」
子供は、素直。
「ハハハ。ありがとう。今は仕事中だから、あとで食べるね」
小さなチョコの欠片を貰うと、食べずにポケットに入れた。
数軒回ったところで、ついに情報を得た。
「うちの子も、一週間ほど前に大変だったわ」
「お宅でも、ワンちゃんが毒らしきものを食べたというんですか?」
「そうなの。庭に繋いでいたんだけど、ふと見ると泡を吹いて苦しんでいて、慌てて病院へ連れて行って胃洗浄をしてもらって、なんとか一命を取り留めたの。あれから怖くて室内飼いに変えたのよ」
「室内なら、安心ですね」
探偵はフンフンと鼻を利かせる。
「何をしているんですか?」
「犯人の痕跡を探しているんですよ」
「やっぱり、犬なんですね」
この家の主婦も、薄々気付いていたようだ。
「いえ、あっしは人間です」
「あっし?」
「どうもありがとうございました」
終わると、礼を言って立ち去る。
探偵のフサフサ尻尾が左右に大きく揺れている。
これは、機嫌がよい証拠。
「何かわかったんですか?」
「ああ。わかった」
「犯人が?」
「そうだ」
何も気づかなかったケーナには、そんな簡単に犯人が見つかるなんて、とても信じられない。
「では、誰が犯人ですか? 動機は?」
「マダムのところに戻って、まとめて説明するよ」
教えてもらえないまま、マダムの家に行く。
最初のコメントを投稿しよう!