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宝石を護衛しろ その1
「なんでもかんでも贅を尽くしていて、豪華客船って、本当にすごいですよね。夢の国にいるみたい」
頭がゴールデンレトリバーの犬探偵藪やぶ犬と、助手ハムスターのケーナは、豪華客船のバーカウンターに座っていた。
探偵は、眉間を寄せてダンディーにロックを飲んでいる。
ケーナは、カクテルグラスに入ったキウイジュースを飲んでいる。
金ぴかで煌びやかなラウンジでは、着飾った男女がバンドの生演奏で社交ダンスを楽しんでいる。
「眼福だわ」
いるだけで幸せ気分になれる。
ここは、豪華客船プリンセス・ヒポポタマス号。乗船料金がとんでもなく高額で、富裕層しか乗れないと言われている。
実際、どの人も金持ちそうだ。
「師匠、さっきから黙っていてしゃべりませんね」
ケーナは、探偵の顔を覗き込んだ。
探偵の瞳には、ダンスを踊るセレブ夫婦が映っている。そこに自分の顔を映す。
二人は、あの夫婦から依頼を受けて乗船していた。
「師匠のそれ、美味しいですか?」
「ウーロン茶だ」
「バーボンかと思っていました」
「仕事中だからな。浮かれて気を抜いてはならない。君も気を引き締めておくように」
「はーい」
せっかくの貴重な体験なのに、残念だと思いながら次のチョコレートドリンクをズズズ……と吸い込む。
(こんなところで事件が起きたって、すぐ犯人は特定されるのに。そんなに愚かなことをするかなあ……)
依頼内容は、夫人の持つ『ゴールド・アイ』と名付けられた宝石が盗難されないよう護衛してほしいというものだった。
ゴールド・アイの価値は、軽く億を超えるらしい。
もし盗まれたら、犯人を見つけ出して取り戻すところまで依頼に含まれている。
『このゴールド・アイは、世界中の宝石泥棒から狙われています。過去にも何度か盗まれたいわくつきなんです』
海上で盗まれては、警察もすぐに駆け付けられない。そのため、私立探偵に依頼したと説明されていた。
プリンセス・ヒポポタマス号は、日本を発ち、香港に向かう航路を現在進んでいる。
場所によっては、日本の警察なのか、香港の警察なのか、わからない。わからないということは、当てにならないということでもある。
「盗もうにも、泥棒さんには不利な状況なんだけどなあ。本当に盗まれるのかな」
当然、周囲は大海原。
いわゆる、クローズドサークル。閉ざされた空間。
泥棒が盗んだところでどこにも逃げられないし、宝石も海に捨てられない限り100%見つかる。
楽な仕事。
しかも、自分たちもお客様として、一流のサービスを受けることができる。
ルンルンと乗り込んだが、規模の大きさに圧倒された。
乗客2700名に乗務員が1300名。総勢4000人がこの船に乗り込んでいる。
ちょっとした町と同じ規模である。
これだけ広くて人が多いと、宝石を直接見ているほうがいい。
防衛は最大の攻撃ということで、探偵は番犬よろしく24時間夫妻を監視しようと目を光らせている。
(師匠には苦じゃないだろうけど……)
集中力のないケーナには、ずっと神経を張り詰めて監視することは、なかなかの苦行である。
つまらなそうなケーナに、探偵が気を利かせた。
「ここはあっしが見ているから、自由に行動して楽しんできていいぞ」
「師匠……。ウソみたいに優しい……。どうしたんですか?」
探偵は、ウーロン茶を渋そうに飲む。ダンディー。
「ついでに、船内を観察してこい」
「そういうことですか」
気晴らしついでに、船内を見て回ることにした。
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