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宝石を護衛しろ その2
ラウンジを出て広い廊下を歩く。
マガジンラックに船のパンフレットがあったので手に取った。
船内見取り図とサービス案内、簡単な船内構造が書かれている。
『嵐が起きても「スタビライザー」によってプリンセス・ヒポポタマス号はびくともせず安定航行できます』
「なるほど。だから揺れないのね。……それより、これ、いい紙使っているなあ」
噛み応えを試したくなり、表紙をかじってみる。
(噛み心地、最高だ!)
気付くと、足元には細かくなった紙きれがいくつも落ちている。
「ハッ、いけない! つい、調子に乗っちゃった!」
ハムスターのケーナには、紙類を細く噛みちぎる習性がある。表紙はすでに半分となっていた。
落ちているゴミを集めて、壁についたダストシューターに捨てる。
ゴミは、各所にあるダストシューターを通じてすべて船底に集められるらしい。
ドアを開けて、外デッキに出る。
「えーと、ここは、どこのデッキだろう……」
パンフレットによると、18か所もデッキがある。
それぞれに、スカイ・デッキ、スポーツ・デッキ、サン・デッキ、リド・デッキ、プロムナード・デッキなど、目的別にわかりやすく名付けられ利用されている。
「屋外バー、ピザスタンド、ハンバーガースタンドがあるから、ここがリド・デッキか。あ、アイスクリームスタンドもある」
ケーナは駆け寄ると、ストロベリーアイスクリームを注文。
コーン入りを受け取ると、ペロペロなめながら見学してまわった。
「冷たい、美味しい、役得~」
船内は、コンサート、フィットネス、映画、ボウリング場、カジノなど、とても覚えきれない娯楽が用意されている。
何をしても、お金のやり取りがない。食べ放題飲み放題遊び放題。すべて乗船料金に含まれている。もちろん、ケーナたちの分は依頼人払い。
「全部楽しむには、世界を一周しても足りないや」
どこを見ても、大勢の人々が好きなことをして楽しんでいる。
「本当に、この中に宝石泥棒がいるのかな」
お金を持て余した乗客たちは、毎日衣装を替え、アクセサリーも替える。
ケーナは、毎日同じセーラー服。
ハムスターがセーラー服を着ているからか、すぐに顔を覚えられて歩けば声を掛けられる。
「お散歩ですか?」
「はい」
小学生の姉妹が駆け寄ってきた。
「ハムちゃーん! 遊ぼう!」
「冒険しようよ!」
ケーナはその愛くるしさから、子供にも大人気。
子供は、大人が思いつかないような隙間を見つけて潜り込む。
ケーナはもっと小さいから、子供が入れない場所にも行ける。
それが面白いようで、いろんな隙間を通らされた。
「このパイプ、通れる?」
雨どいのパイプの中まで走らされた。
パイプがどんなに狭くても、ケーナの体は流線形のように伸びて通り抜けられる。
ビヨーンと全身を伸ばしたら、セーラー服がスポーンと脱げてパイプ内に残り、裸で出てきてしまった。
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