56人が本棚に入れています
本棚に追加
宝石を護衛しろ その3
姉妹と別れて一通り船内を探索すると、探偵のところに戻った。
「師匠、ただいま」
「どうだった?」
「なんでもありました。こちらは何かありましたか?」
「平和だね」
探偵のほうは夫妻に付きっ切りで目を光らせていたが、怪しい人物は近づいていない。
「夫妻は、ダンスを楽しみ、ジャグジーにつかり、パターゴルフをしたあとは、サンデッキで体を焼いたよ。とてもアクティブだ」
「徹底的に楽しんでますね」
夫妻が探偵のところにやってきた。
夫人の胸元には、ゴールド・アイのブローチが光っている。
「そろそろ、お食事に行きましょう」
「お供します」
レストランでバンドの生演奏を聴きながら、フレンチコースをいただく。
「ハムハム……。どれも食べたことのない味……、おいひい……」
ケーナは、ひたすら料理を口に運び、頬袋がいっぱいになる。
探偵はダンディーにナイフとフォークを使ってステーキを食べている。
夫妻も上品に食べ進める。
「探偵さんはゴールデンレトリバーなんですよね」
「いえ、あっしは人間です」
人間ですと言われても、実際に頭が犬なのだから信じない。
「助手のケーナさんは、ハムスターですね。種類は?」
「ゴールデンハムスターです」
「まあ、ホホホ。ゴールデンコンビね。私のゴールド・アイの護衛にふさわしいわね」
夫人は、セレブなジョークを口にした。
食べ終わると、夫人が大浴場に入りたがった。
「普通はシャワーだけなのに、この船には大浴場があるの。それがこの船を選んだ理由よ」
「お風呂ですか……」
さすがに探偵は女湯までついていけないので、ケーナが夫人に付き添うことになった。
「大浴場の外で待っているから、何かあったらすぐに呼べ」
「わかりました。お風呂に行ってまいります」
仰々しく挨拶して大浴場の女湯に入る。
脱衣所で服を脱ぎ、夫人はゴールド・アイを外した。
貴重品ロッカーもあったが、一旦、脱衣籠に置く。
大浴場の壁は一面ガラス張りで、外の海が見える。
「お風呂もオーシャンビューですね!」
「本当ね。湯船に浸かって海が見られるなんて、とても気持ちよさそう」
景色の良さに二人とも目を奪われる。
「あー!」
夫人が叫んだ。
「どうしました?」
「ゴールド・アイがない! 消えたわ!」
「え? いつですか?」
「今よ! 今! 宝石から目を離した一瞬に!」
「なんですと!」
「どうしよう!」
ショックを受けた夫人は、パニックになっている。
「大丈夫です。必ず見つけますから」
夫人を近くの椅子に座らせると、周囲を見た。
これから入浴するもの、出てきて体を拭くもの。
誰もが全裸か半裸姿で、体に宝石を隠し持てそうにない。
化粧台では何名か座ってドライヤーを使っている。その音がかなりうるさく耳障りで、会話も聞き取りにくい。
記憶では、四人の女性が近くにいた。
背が高く長い黒髪の若い女性。
小学生の女の子とその母親。
上品な老婦人。
(この人たちが怪しい……)
黒髪の女性が浴室に入っていった。
母親は、娘の髪をドライヤーで乾かしている。
老婦人は、鏡の前で顔パック中。
(今の内に……)
ハムスターの体を利用して、ササッと、気付かれないよう荷物を見て回った。
「ない! 誰も持っていない! どうして?」
どこにも宝石は見当たらなかった。
すぐに探偵に相談。
警備員に連絡して浴室内を調べてもらったが、引き出し、物入等からも出てこなかった。
乗客・乗務員の荷物検査も行ったが、ゴールド・アイはどこにも見当たらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!