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宝石を護衛しろ その4
「ウッグ……、ヒィック……」
泣いているケーナを探偵が注意した。
「泣いていたって、宝石は出てこないだろ」
「だって、だって、目の前で盗まれたんですよ。悔しくて」
さめざめと泣くケーナ。
夫人は自分の客室で寝込み、夫が付き添っている。
「あっしが女湯に乗り込んでいって、現場を調べることもできないしなあ」
探偵が手で頭の後ろを掻くと、長く垂れた耳は前後に揺れた。
いつもなら探偵が現場の匂いを嗅いで犯人を突き止めるのだが、今回はできない。
「頼りはケーナだけだ。君が見たことだけで事件を解決しなければならない。だからしっかりしないと。細部まで思い出すんだ」
「そうですけど……、できるとは思えません……」
「とにかく、香港に着くまでに絶対に見つけなければならないぞ」
外国に逃げられては、二度と手元に戻らないだろう。
「容疑者は、三人に搾られるんだな」
「はい。黒髪の若い女性。小学生の女の子を連れた母親。老婦人です。女の子は一切近づいていないので外れると思います」
女の子は終始化粧台の前にいて、ゴールド・アイに近づいていない。
母親は、右隣で着がえていた。
左隣には老婦人。
その一つ隣を黒髪の女性が使用していた。
黒髪の女性は、夫人の後ろを何度か行き来していて動きが怪しかった。
そのため、特に念入りに探ったが見つからなかった。
その間、体一つで入浴していたから、本人が持っているはずはない。
「本当に不思議です。忽然と消えて、あの狭い浴場のどこにもないなんて」
「営業時間は何時までだったかな」
「パンフレットによると、朝6時から深夜0時までです。毎日、男女が入れ替わるようです」
「それなら、明日はあっしが調べられるな」
翌日、探偵が現場を調べることにした。
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