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花の匂ひ 後日談
「つまり、スチュワードさんの本名は『境権太』だったんですね。ズ……ズズズ……」
ケーナは、タピオカミルクティーを飲みながら、探偵から話を聞いていた。
「あの家で働いている間はスチュワードと呼ばれていて、その記憶だけが出てきた。だから、これは自分の名前じゃないという思いがどこかにあって、確信が持てなかったんだ。ズ……ズズズ……」
探偵も大好きなタピオカミルクティーを思いっきり吸い込んでいる。
「そういうことだったんですね。ズ……ズズズ……」
確信が持てなければ、自分が何者なのか分からず不安になる。
本名は『境権太』だと教えられても、完全に記憶が戻るまで不安は払しょくされない。
スチュワードが綿鍋家は自分のいる場所と信じた理由は、もう一つの記憶、『花の匂い』だった。
綿鍋家に入った瞬間、『クンクン……。――この匂いだ! 確かに覚えている!』と、興奮していた。
記憶と同じ花の匂いがあるこの場所で暮らすことで、いずれ記憶が完全に戻るだろう。
誰もがこの時のスチュワードの様子からそう信じた。
ちなみに、『花の匂い』の正体は、夫人のいつもつけている香水だった。
無事、身元が判明。その結果、綿鍋家から多額の謝礼をいただいてタピオカミルクティーを飲めるようになった。
しばらくはヒマワリの種を食べないですみそうなのがケーナは嬉しい。嫌いじゃないけど食べ飽きている。
「上品なはずですよ。あんな大金持ちの執事なんだもの。かといって、嫌味な傲慢さがなく、出しゃばらず、控えめで……」
「大絶賛だな。相当、惚れ込んだか? 一緒に働けなくて残念だったな」
「やだん。それはないですう」
探偵がやきもちを焼いていると、ケーナはおかしくなった。
ケーナは、「モグモグ」と、タピオカを噛み潰しながらあることを思いついた。
「自分たちでタピオカミルクティーを作れば、安上がりになると思いませんか?」
「思わない。手間が掛かる」
毎日暇なのになあとケーナはぼやいた。
終わり
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