脅迫状 その3

1/10
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ

脅迫状 その3

 犬探偵とケーナは、ジムに行けた時には宗方を見守ったが、報酬がない以上、ずっと張り付くこともできず、差出人が分からないまま日が経った。  宗方が二人の目の前でピンバッジをつけることはなかった。 「このまま何も起きなければいいのだが」 「差出人が宗方トレーナーを諦めてくれるといいですね」  犬探偵に宗方から電話が掛かってきたのは、このように話し合ってからほどなくのことだった。 『た、助けてください‼』  宗方の切羽詰まった声が電話口から聞こえてくる。 「どうしました?」 『児玉さんが亡くなって、私が疑われているんです!』 「児玉さんが亡くなった?」 『お金は払います! 真犯人を突き止めて、私を救ってください!』 「分かりました。話を聞きに伺います」  電話を切ると、犬探偵とケーナはスポーツクラブに駆け付けた。  死体発見現場となったスポーツクラブで顔を合わせると、状況を確認する。 「児玉さんはどういう状況で亡くなったんですか?」 「ボルダリングをしていた児玉さんが壁から落下して、丁度真下にダンベルが置いてあり、運悪く頭を打ちつけてしまったようです」  全然、運悪くじゃないと犬探偵とケーナは思った。  ボルダリングの下にダンベルなど置かれるはずがない。故意の匂いがプンプンする。 「児玉さんは、ボルダリングもするんですか? 筋肉をつけることだけに興味があるのかと思っていました」 「いえ、私も知りませんでした」 「やるにしても、体重が重すぎて無理そうですよね」  体重100㎏がぶら下がるには、握力がどれだけ必要だろう。 「実は、ボルダリングは私がやろうと思っていたんです」 「宗方トレーナーが?」 「私はボルダリング選手でもあるんです。営業時間が終わってから練習させてもらっています。それもあって、練習に行ったら児玉さんが倒れていたんです」 「営業時間外の誰もいないボルダリング場で第一発見者になって、それで疑われたということですか」 「そうです」 「もしかして、ダンベルは宗方トレーナーを狙って置かれていたかもしれませんね」 「そうかもしれません」 「ところで、ピンバッジは着けたんですか? 手紙の差出人は分かりましたか?」  犬探偵がサクッと手紙の話にすり替える。 「脅迫に屈するのが嫌だったので、ピンバッジは着けていません。差出人もまだ知らないんです」 「秘密はばらされたんですか?」 「今のところ、その様子はないですね」 「なんだ。やっぱり秘密があったんですね」 「あ! しまった!」  ポロリと口から出てしまって、宗方は自らダメージを受けている。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!