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脅迫状 その3
犬探偵とケーナは、ジムに行けた時には宗方を見守ったが、報酬がない以上、ずっと張り付くこともできず、差出人が分からないまま日が経った。
宗方が二人の目の前でピンバッジをつけることはなかった。
「このまま何も起きなければいいのだが」
「差出人が宗方トレーナーを諦めてくれるといいですね」
犬探偵に宗方から電話が掛かってきたのは、このように話し合ってからほどなくのことだった。
『た、助けてください‼』
宗方の切羽詰まった声が電話口から聞こえてくる。
「どうしました?」
『児玉さんが亡くなって、私が疑われているんです!』
「児玉さんが亡くなった?」
『お金は払います! 真犯人を突き止めて、私を救ってください!』
「分かりました。話を聞きに伺います」
電話を切ると、犬探偵とケーナはスポーツクラブに駆け付けた。
死体発見現場となったスポーツクラブで顔を合わせると、状況を確認する。
「児玉さんはどういう状況で亡くなったんですか?」
「ボルダリングをしていた児玉さんが壁から落下して、丁度真下にダンベルが置いてあり、運悪く頭を打ちつけてしまったようです」
全然、運悪くじゃないと犬探偵とケーナは思った。
ボルダリングの下にダンベルなど置かれるはずがない。故意の匂いがプンプンする。
「児玉さんは、ボルダリングもするんですか? 筋肉をつけることだけに興味があるのかと思っていました」
「いえ、私も知りませんでした」
「やるにしても、体重が重すぎて無理そうですよね」
体重100㎏がぶら下がるには、握力がどれだけ必要だろう。
「実は、ボルダリングは私がやろうと思っていたんです」
「宗方トレーナーが?」
「私はボルダリング選手でもあるんです。営業時間が終わってから練習させてもらっています。それもあって、練習に行ったら児玉さんが倒れていたんです」
「営業時間外の誰もいないボルダリング場で第一発見者になって、それで疑われたということですか」
「そうです」
「もしかして、ダンベルは宗方トレーナーを狙って置かれていたかもしれませんね」
「そうかもしれません」
「ところで、ピンバッジは着けたんですか? 手紙の差出人は分かりましたか?」
犬探偵がサクッと手紙の話にすり替える。
「脅迫に屈するのが嫌だったので、ピンバッジは着けていません。差出人もまだ知らないんです」
「秘密はばらされたんですか?」
「今のところ、その様子はないですね」
「なんだ。やっぱり秘密があったんですね」
「あ! しまった!」
ポロリと口から出てしまって、宗方は自らダメージを受けている。
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