宝石を護衛しろ その3

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宝石を護衛しろ その3

 姉妹と別れて一通り船内を探索すると、探偵のところに戻った。 「師匠、ただいま」 「どうだった?」 「なんでもありました。こちらは何かありましたか?」 「平和だね」  探偵のほうは夫妻に付きっ切りで目を光らせていたが、怪しい人物は近づいていない。 「夫妻は、ダンスを楽しみ、ジャグジーにつかり、パターゴルフをしたあとは、サンデッキで体を焼いたよ。とてもアクティブだ」 「徹底的に楽しんでますね」  夫妻が探偵のところにやってきた。  夫人の胸元には、ゴールド・アイのブローチが光っている。 「そろそろ、お食事に行きましょう」 「お供します」  レストランでバンドの生演奏を聴きながら、フレンチコースをいただく。 「ハムハム……。どれも食べたことのない味……、おいひい……」  ケーナは、ひたすら料理を口に運び、頬袋がいっぱいになる。  探偵はダンディーにナイフとフォークを使ってステーキを食べている。  夫妻も上品に食べ進める。 「探偵さんはゴールデンレトリバーなんですよね」 「いえ、あっしは人間です」  人間ですと言われても、実際に頭が犬なのだから信じない。 「助手のケーナさんは、ハムスターですね。種類は?」 「ゴールデンハムスターです」 「まあ、ホホホ。ゴールデンコンビね。私のゴールド・アイの護衛にふさわしいわね」  夫人は、セレブなジョークを口にした。  食べ終わると、夫人が大浴場に入りたがった。 「普通はシャワーだけなのに、この船には大浴場があるの。それがこの船を選んだ理由よ」 「お風呂ですか……」  さすがに探偵は女湯までついていけないので、ケーナが夫人に付き添うことになった。 「大浴場の外で待っているから、何かあったらすぐに呼べ」 「わかりました。お風呂に行ってまいります」  仰々しく挨拶して大浴場の女湯に入る。  脱衣所で服を脱ぎ、夫人はゴールド・アイを外した。  貴重品ロッカーもあったが、一旦、脱衣籠に置く。  大浴場の壁は一面ガラス張りで、外の海が見える。 「お風呂もオーシャンビューですね!」 「本当ね。湯船に浸かって海が見られるなんて、とても気持ちよさそう」  景色の良さに二人とも目を奪われる。 「あー!」  夫人が叫んだ。 「どうしました?」 「ゴールド・アイがない! 消えたわ!」 「え? いつですか?」 「今よ! 今! 宝石から目を離した一瞬に!」 「なんですと!」 「どうしよう!」  ショックを受けた夫人は、パニックになっている。 「大丈夫です。必ず見つけますから」  夫人を近くの椅子に座らせると、周囲を見た。  これから入浴するもの、出てきて体を拭くもの。  誰もが全裸か半裸姿で、体に宝石を隠し持てそうにない。  化粧台では何名か座ってドライヤーを使っている。その音がかなりうるさく耳障りで、会話も聞き取りにくい。  記憶では、四人の女性が近くにいた。  背が高く長い黒髪の若い女性。  小学生の女の子とその母親。  上品な老婦人。 (この人たちが怪しい……)  黒髪の女性が浴室に入っていった。  母親は、娘の髪をドライヤーで乾かしている。  老婦人は、鏡の前で顔パック中。 (今の内に……)  ハムスターの体を利用して、ササッと、気付かれないよう荷物を見て回った。 「ない! 誰も持っていない! どうして?」  どこにも宝石は見当たらなかった。  すぐに探偵に相談。  警備員に連絡して浴室内を調べてもらったが、引き出し、物入等からも出てこなかった。  乗客・乗務員の荷物検査も行ったが、ゴールド・アイはどこにも見当たらなかった。
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