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エピローグ
「あら、寝ちゃった」
結花は、由紀と勇斗がいつのまにか眠りに落ちているのに気づき、もう一度静かにキャンバスを見た。
キャンバスには、鮮やかで透き通った色彩の桜や青空が壮麗に見映える。
そして、その中心には花束を抱えるドレス姿の結花が繊細なタッチで描かれていた。
「こりゃ、美化しすぎでしょ」
結花は一人でクスクス笑ったが、あの日に感じた熱い視線を思い出して納得する。
「これは、あの人の中かな」
結花はキャンバスを掲げ、照明の光に当てて眺めていると、玄関の開く音がした。
その拍子に娘は目を覚ます。
「あ、お父さん!」
由紀は立ち上がって、玄関へと走って行く。結花はキャンバスを置き、娘を追いかけた。
「お父さん!」
「おお、由紀。お父さん埃っぽいからな」
由紀が会社帰りの父親に抱きつくと、彼は嬉しそうに娘を抱き上げて、自分から距離を置かせた。
母親も廊下の角から姿をのぞかせる。
「おかえりなさい」
結花がどことなく嬉しそうなので、勇希は彼女を見ると少し怪訝な顔になり、それから穏やかに目を細めた。
「ただいま」
開いた玄関から吹き込む涼しい海風が、二人の髪を靡かせ、そのまま通り過ぎた。
おわり
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