プロローグ

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プロローグ

 結花は、家の中を忙しく整理していた。明後日に息子の入学式があるからだ。 本当は息子の勇斗が自分でやるべきなのに、彼はゲームをしているだけだった。 「ほら、勇斗。自分のことなんだから、お母さんにばっかりやらせないでよ」 「待ってて」  息子は誤魔化すように返事をした。同じ返事がこれで五回目である。 結花は呆れて言葉も出ないまま、押入れのどこかに押し込んでおいた父親の鞄を探す。 娘の結紀も押入れの中で手伝っているが、ほとんど役に立っていない。 「結紀。遊んでるだけなら、何もしない方がマシなんですけど。ぐちゃぐちゃにしないでよ。ん、これかな?」 「お母さん、この大きな絵は一体なに?」  娘は押入れから脱出し、嬉しそうにキャンバスを母親へ差し出した。 「ああ、こんな所にしまっておいたんだっけ」  結花は娘からキャンバスを奪い取り、気恥ずかしい気持ちでそれを抱いた。 「すごくかわいい女の子の絵、お姫様みたい」  娘が興奮して言うと、結花の乙女心が十七歳に戻ってしまった。 「別に、かわいくないし」  大人しい母親が急に大声を出したので、娘は驚いて押し黙ってしまう。 「まだ見せてなかったっけ。これね、お母さんが大学生だった時の絵なの」  結花は優しい口調で娘に言った。 「お母さんこんなだったの。すごいすごい、美人!」  娘がぴょんぴょん跳ねてはしゃいだ。 「お母さん、これ誰に描いてもらったのさ?」
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