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彼女は美人という意味では一際目立つ存在だが、決して悪目立ちするタイプではなく、授業中はむやみに騒ぐことはない。一番前の席で熱心に先生の呪文のような説明を聞いているし、遅刻したり掃除当番をサボったりしたことは一度もない。
流行のファッションやメイクの話で盛り上がる女子たちのグループに、自ら入ることはないのに、気がつけば彼女の周りには人がいる。
そんな美女に惚れない男などいるはずもなく、そしてそこにはきちんと僕も入っていた。
駅で電車が来るのを待っているとき、隣の列に彼女が並んでいるのが見えた。ここでも一番前の黄色線のギリギリのところに立っている彼女は、そこだけ切り取れば映画のワンシーンを見ているかのように美しい。
電車のドアが開いてすぐに、彼女の座る席を目で追い、わざわざこの席を選んで座った。
彼女は電車が揺れても一切動じずに本を読んでいる。僕はスマホを顔の前に持っていき、画面を見ているフリをして彼女を見る。
駅に着くと電車はゆっくりと停車し、数人の客を降ろして乗せて、再び走り出す。
大桐一果はどの駅で降りるのだろう。
一度そう思うと、彼女が降りる駅とそのあとにどこに行くのか気になり、二駅目を過ぎるころには、今日は本屋に行くのをやめて、彼女の降りる駅で降りると決めていた。
四駅目に到着すると、乗客は一気に降りていき、車内は空席が目立つようになった。大都会なら一駅すぎるごとに、何十人もの人間が乗り込んでくるのだろうが、このあたりの地域ではだいたいいつもこんな具合で、電車で出かけるのも気が楽なのだ。
四駅目の乗客の乗り降りが終わり、扉が閉まると車内は静寂に包まれる。本来なら改札を出て本屋に向かっている自分を想像する。しかし大桐一果はまだ降りる気配がない。
本を読むのに集中していて降りる駅を忘れているのではないかと思ったが、たとえそうだとしても彼女が降りる駅を知らない僕にはどうすることもできない。
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