Obverse3-1〈ハイラ×ヌユ〉

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Obverse3-1〈ハイラ×ヌユ〉

ハイラ×ヌユ もう、おまえに会いに行ってもいいかな? 「ヌユくん、毎回こんな田舎まで来てくれてありがとうね。遠かったでしょ?あれ、最近引っ越したんだっけ?」 「いえ…。こちらこそ、親族ばかりの七回忌にわがまま言って来てしまいすみません。 先月の転勤で前よりも少し遠くに引っ越しました。」 嘘だ。転勤なんてしていない。もはや仕事もしていない。前は無理して行っていた仕事を先月やめて、彼がいた日を思い出すため遠く母校の近くに引っ越した。 でも、本当のことを言うと余計な心配をかけてしまう。 街の空気を吸うたびにあの頃が鮮明に蘇ってくるし、毎日一緒に通った学校への道を眺めてしまう。 一度は離れてみようかと誰も知っている人がいない、1日では戻ってこれない場所に住んだこともあった。でも結局は毎月少しでも時間がとれたら戻ってきてしまい、忘れることも離れることも諦めた。 「…あれから6年経つのかぁ、ヌユくんは初めて会った頃より大分落ち着いた大人な顔をしてるもんなぁ。」 ハイラによく似た優しい顔のお父さん。ハイラが生きていたら、もっと似た顔が見れていたかもしれない。 「ハイラだけか。いつまでも変わらないのは。」 今まで生きてきた中で1番お互いを理解し合っていた人、ハイラ。仲良くなったのは高校2年の時だった。一緒にいれたのはたったの数年だけれど、その年数以上のものが自分と彼の仲にはあった。 医者を志望していたハイラは誰にも負けないくらい強い正義感の塊みたいなやつで、それは死ぬその瞬間まで変わらなかった。 「ハイラが…ハイラが助けたあの子は今でも元気ですか?」 「うん…。今だに数ヶ月に1回は手紙を送ってくれるんだ。 今年から中学生になって、将来はお医者さんになりますって。 もう………忘れてもいいと思うけどね。あの子の一生に彼の死がつきまとってしまうみたいで…。誰にも罪は無いんだからさ。 ヌユくんも……そうだからね。君は若いし、ハイラだって君の幸せを願っているんだから。」 本心で言ってくれているのに、どこか寂しげな表情で、そのことを言わせてしまっている自分に不甲斐なさを感じる。 「俺は、ハイラのこと誰よりもずっとずっとこの先覚えてますよ。 番ですから。…確かにまだ付き合って間もない関係で、本当に番になっていたわけではないですけど、2人で決めてご両親に挨拶に行ってからそうなろうって言ってましたから。」 ハイラのお父さんは顔を俯かせて肩を震わせた。 「そ、そんなこと………言わないでよ。 いつまで待っても迎えには来ないんだから…。 本当に守るべき人を置いていって、死んでしまうんだもんなぁ。 ……あのさ、私が言うことでも、ないと思うけどね、 そろそろ他の人を探したらどうかな。告白してくる人もお見合いも断っているって君のお母様から聞いたけど、ハイラの代わりに僕たちに親孝行をすると思って、それじゃなきゃ、いつまで経っても6年前のままだよ。 君は生きているのに、心はハイラと…亡くなってしまったみたいだよ。 こんなことは言いたくないけど…妻と話し合ってね… 君が幸せになるまで、笑顔でここに来れるようになるまで、ハイラには会っちゃだめだ。 しばらく来ないでくれ。」 地獄に突き落とされたような、そんな瞬間だった。その後どうやって家まで帰ったのかも覚えていない。 きっと、俺の母さんと話したということは、他にも色々聞いたのだろう。 6年間、毎日泣いていた。何度あいつを追いかけようとしたか分からない。ハイラが亡くなった浜辺に行っては夜を明かす日もあった。 ただ、「ハイラはヌユが生きることを望んでいるよ。」というその言葉だけで生きてきた。 彼がいない世界での自分の幸せとは何だろうか。彼のことはたまに思い出して懐かしくなり、他の人と結婚をして、その人の子供を産んで、ずっと笑顔を作り続ければいいのだろうか。 そしたら、ハイラの命日には、また訪ねても喜んで迎えてくれるだろうか。 「君がハイラの恋人かい?ごめんね。ごめんね。彼のことをずっと好きでいてくれるかな?忘れられてしまうのは、酷く悲しいんだよ。」 「ヌユくん?だよね?久しぶり。ようやく家の中も落ち着いてきたよ。でも、彼がいないと寂しいね。君もそうだよね…。」 「今年はハイラと君の思い出を聞かせてくれてありがとう。ヌユくんはハイラのこと本当に好きでいてくれているんだね。」 「もうヌユくんは社会人なのかぁ。今、付き合ってる人はいるのかな?いや、ごめんね、泣かせるつもりはなかったんだ。」 「ヌユくん。私たちはね、君がハイラのことを好きでいてくれてとても嬉しいよ。でも、他の人も好きになってもいいんだからね。」 「君が幸せになるまで、笑顔でここに来れるようになるまで、ハイラには会っちゃだめだ。」 ハイラ…。ただいつまでも変わらない気持ちでおまえのことを好きでいるだけなんだ。 翌月に診断員がうちまで来て番推薦書を持ってきた。 「これ、玄関に置いておきますね。次は断っても絶対に渡しくれって頼まれたので。」 「…………………どうせ可燃ゴミになるんで、そこのゴミ箱に入れておいてください。」 困った顔をさせてしまった。知らない人までに迷惑をかけている。本当は自分が可燃ゴミみたいなやつなのに。 「…たまにあるみたいですよ。時代を超えたり、次元までも超えたり。 私は…ニホンっていう国のブシから推薦書が届いた人を知ってますよ。そこがどんな場所かも存在する世界の国かも知りませんが。 番って相性だけじゃなくて、相手を幸せにしてくれる人ですよ。 もし、あなたの永遠と待つ人がどこかであなたを想っているのなら、 ……天国っていう国からもくるんじゃないですか?」 その言葉に今まで全く興味のなかった推薦書を診断員の手から奪い取った。 封筒を開けると、写真の中にあの頃より精悍な顔つきになって、やっぱりお父さんに似たハイラがいた。 2年後、ヌユはハイラが亡くなった浜辺に来ていた。 ヌユの大きく膨らんだお腹にはハイラとの間にできた新しい命が宿っていた。 「ハイラ。…もう、お前に会いに行ってもいいかな?」 グスッ、グスッ。 「どうしたんだい?ユイラ?何か怖い夢でも見たのか?」 「ジィジ〜、ジィジ〜。 ママとパパは?どこにいるの??ユイくんのこと嫌いだからどこか行ったの??」 「…ユイくんのママとパパはね、ユイくんのことが大好きだから、まだ会えないんだよ。」 「じゃあ明日の朝になったらかえってくるの?」 こんなに小さな子供にはハイラとヌユの気持ちは分からないだろう。 私にだって分からない。そこまで番を愛する気持ちも。海の中でヌユくんのお腹にいた自分の子供を守り、私に託したのであろうハイラの気持ちも。 『ユイラ、お前は俺たちの宝だよ。』 _________________________________________ ハイラ…一途なα。享年21。ヌユのことを昔から溺愛していた。海で溺れかけていた女の子を助けた際に亡くなった。かなりの親バカ。 ヌユ…泣き虫Ω。享年29。ハイラが亡くなってから生きる希望を失っていた。ユイラを自分の手で育てられないことを ユイラ…2人の息子。
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