1人が本棚に入れています
本棚に追加
ハンカチーフ
この掃海艇を購入して二十年になる。船体も傷だらけだし、エンジンの調子も悪く、叫び声の様にに聞こえる。あまり安全な仕事であるとはいえない。
ゴミの中で多いのは、コンンピュターの基板だと思うが、大量に集めれば希少な金属も収集めることができる。子どもの玩具、恋人や家族の写真はほんの切片が見られることもある。ここにあったという生活の痕跡がある。
何よりの収入の中心は、あれだけの建造物が破壊されたのだ。夥しいその残骸をかき集めることにある。宇宙空間をただよう巨大な残骸をこの小さな船体につなげるには限度がある。しかしまだまだ無尽蔵ではあるし、同業者との競争も厳しい。
ときよりこの巨大な人工惑星で働いていた遺族と出会う。彼らはこの宇宙空間を漂う遺品をほんの僅かなでもいいので見つけてかき集める。大切な人の記憶を必死に途方に暮れて。
地球の移民政策を目的とした巨大プロジェクトがはじまり反政府的な運動が起き、この人工惑星を地球共和国から独立させてしまったのだ。
地球では気候の異常に手を受けることもできず、人口爆発には手のほどこしがなく経済的な行き詰まりから、細々と構築しれきた、社会制度と社会福祉制度が崩壊し、歴然と貧富の差が大きく見えた。
後にニュースターと呼ばれるようになった人工惑星で、前近代的な政治形態ができたのはどうしてか。
地上のフラストレーションが一気に広がった。ニュースターに資本をつぎ込んだ彼は人々にとっては英雄になり、王のように君臨してそのノスタルジックでファンタジックものだった。この生活に憧れニュースターに移住したのは第1期で5千万人だった。人工惑星と言ってもそこには農場が広がり、汚れ果てた地球の大気よりもすんでいた。気候変動もなく病害虫すらいない、人工爆発に対する有効な手段ともいえ当然雇用も確実に確保された。新たなニュースターは一つのユートピアだった。が、崩壊するのも案外と簡単なのだ。
地球に残った人類はどうやらニュースターとの共和を望んでいたらしい。しかし反対派はこの人工惑星の独立は好ましいものではなく、地球の首領は経済的にも軍事的にも力を持ち地球との間には均衡した関係ができていた。
しかしその均衡もわずか数人のテロリストのために崩された。彼らは地球にとっては英雄になったが、
ニュースターの首領はどす黒い悪の象徴とされ、人工惑星のユートピアを創り上げようとした彼を記録した媒体は全て滅却された。いつも歴史の中でくりかえされるストーリーだ。
一機の遺品収集のための船と、すれ違った。窓からいまだ悲しみに暮れる家族の姿が見える。このツアーは最近になりやっと就航が禁止されていたこの空間への立ち入りと、船の製造が認められ、文字どおり何もかも灰燼と帰したこの宇宙空間になにかが残っていないのか、悲嘆に暮れながらこの旅をしているのだろう。
一機の小型宇宙船が、故障したのかぐるぐると回転しながら漂っていた。通信機で「どうかなさいましたか」と通信したが応答がない。
「応答願います」
確かに器機は反応している。
そばに着けてみると、コックピットに若い女性が乗っていたがどうやら気絶しているのがわかった。
古臭い掃海艇と小型宇宙船をドッキングさた。私のような技術がなければとてもできるるものではないだろう。コクピットは警告音を発しつづけている。女を抱きかかえて、簡易ベッドに寝かせ。小型船を曳航できるようつなぎ止めた。
船につける、日々の収入を考えると廃材を引くキャパがなくなってしまう。とても痛い。
女が気づいたようだ。自分がいる場所に気づき「たすけてくれたんですね」と小声で礼をいった。「ありがとうございます」と、こくりと頭を下げた。
女はアンナと名乗った。私が差し出したコーヒーを一口すすりそして身の上話をしはじめた。
「わたしの恋人はこのニユースターに赴任したばかりです。農場の管理とその技術の開発をたんとうしていました。このニュースターでなにができるのか、人工の惑星でなにができるのか、より栄養価が高くいいものができないか。地球で育つ野菜の種をすべて生産できるようにしたい。地球の食糧危機を救う手立てにしたい・・・・・・といつも熱っぽくかたっていました。ニュースターは軍事基地にすぎなかたといわれていますが、家族で移り住み暮していた人も沢山いました。親友もここで子どもを産んで、地球の見える展望所で撮った家族写真を送ってくれました。彼からも毎日のように写真や近況を送ってきていました。しかし戦況が悪化してくるとデーター制限が厳しくなり、ニュースターの様子もわからなくなりました。中央政府よる監視ですね。ネットの管理なんてもともと軍事目的で作られたんですから、遠く離れたニュースターへのラインはこれだけなんですか、ネットの通信は自由なものだと思っていたら、政治的な関係でプツリと切断させることなんて、本当に簡単なことなんですね」
アンナは吹きこぼれる涙をハンカチ押さえた。すでに地球では絶滅した動物のなかのジャイアントパンダと呼ばれる種の刺繍が笑っている。そういえばアンナはずっとこのハンカチを握りしめている。わたしがそのハンカチを見つめているのに、気づき、「おそろいです。彼にもらいました。あまりにも幼稚でしょ。ペンダントなんかのジュエリーならわかるけどなんでハンカチなの」と少し笑顔になった。
地上の廃材置き場に到着した。アンナも久しぶりの重力と空気を味わうためにおりた。すっかり砂漠化した土地は、やはり地上は引力があり宇宙空間よりは安定してる。
「あっ」とアンナは小さな叫び声をあげた。
収集したニュースターの残骸に、小さなそれも焼け焦げた布きれがこびりついている。
それにはアンナが握りしめていたパンダの同じ刺繍がだった。
了
最初のコメントを投稿しよう!