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「先輩、早く来ないかなあ」
三好も外を眺めていた。
「先輩って、どんなやつ?」
尋ねると、三好は「やさしい」ときっぱり言った。
「それから、背が高い」
「ほー」
「この窓から見ていて、先輩が通ったら、あたしはすぐ見つけられる」
「……マジかよ。似たような頭ばっかじゃん」
「どんな人ごみの中でも、すぐ分かると思う。先輩は……光り輝いてるから」
「……ハゲてんの?」
「馬鹿っ」
三好は笑って、俺を殴る真似をした。
「なんていうかねえ、先輩は特別なんだよ。内側から発光している感じがするんだ。見えない光ね。あたしはそれに吸い寄せられちゃう。ふらふらーって……。なんだろう」
「蛾?」
「蛾じゃない、蝶々。あたしってば、夜の蝶……」
「馬鹿じゃねえの」
「あー。うー。もういいよ」
三好は、かばんから単語帳を取り出すと、パラパラとめくりはじめた。カードとカードの間に白い指を挟みこんで、時々思い出したように、野菜ジュースをじゅっと飲んだ。
三好には、夢があるらしい。それは卒業したらどっか外国に留学したいというもので、それというのも将来翻訳家になりたいから、なんだそうだ。そのために、こんな場所でも勉強を怠らないというわけだ。俺は三好の指を眺めながら、黙ってコーラを飲んでいた。
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