蝉をまたぐ

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しばらくすると、窓の外に「先輩」を見つけたらしい。 「ばいばーいっ」とはしゃいだ感じで手をふると、外の人ごみに紛れていった。俺は、時間をずらして店を出た。 ちょうど出口のとこにセミが転がっていて、死んでんのかと思ってまたいだら、ジジジジジ……と鳴きだして、ひっくり返って、飛んで行った。 「おわっ」と思わず声が出た。 ゼンマイのおもちゃみたいなセミ。どうせすぐ死ぬんだろうけど……、最後のひとがんばりしたんだろう。急に、俺にはなんもないな、と思って、せつなくなった。根性、みたいなそういうの。 それにしても暑い。クソ暑い。 たくさんの人がいるのに、俺の知ってる顔がない。たくさんの人がいるのに、ひとりっきりだと思うのはなんでだろう。俺は人と人の間をユラユラ歩く。 このまま太陽の熱に溶けてしまえば、境目、みたいなもんがなくなって、みんな一個になるんじゃないかと思う。特別、なんてありゃしない。みんながみんなおんなじふう。だれも発光しない。いや、だれもが発光している? そうしたら、いつか、三好とも溶け合うんだろう。 とにかく暑くて、頭ん中がユラユラする。どこか遠くで、ゼンマイ仕掛けのセミが鳴く。
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