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序幕
燦々と太陽の照りつける、夏の公園。小さな蛇口についたホースは暑さのあまりか古さ故かひび割れていて、蛇口を捻った夜凪は顔を顰めた。
水があたりに飛び散る。ひび割れから溢れる水にそっと手を差し伸べると、太陽に熱され続けた水は、熱湯かと疑いなくなる程の温度だった。
まともに水を飲むのは無理かと諦め、ベンチにだらりと座る片割れに声をかけた。
「日凪、こりゃ無理だぜ。熱くって飲めやしない。帰って麦茶でも飲もう。」
「あ”ー、喉乾いた…」
日陰から出たくない、と呻く日凪の腕を引く。こんな暑いところ、早々に退散するに限る。
「家に帰ったら冷房ついてるって。飲み物だって、母さんが冷たいの用意してくれるだろ。」
「うーん…」
「ああもう!行くぞ!…っと。」
どうしても日陰から動きたくないらしい日凪を無理矢理に背負い、歩き始める。幾ら日凪が軽いと言ったって、背丈は自分と同じなのだ。暑さと重さでたたらを踏みながら、一歩ずつ、歩く。
「ちょ、やめてよ夜凪、ああもう!」
片割れはばたばたと暴れ、当然支えきれなくなった夜凪は日凪を背中から下ろす事になった。
もう、無理して背負う事無いんだけど?、と仁王立ちで日凪は告げる。
「家まで走るよ、ほら、夜凪ー!」
「待っ、こら待てよ!」
駆け出した夜凪を追って、日凪は走り出した。
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