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誰も歩かない住宅街の道を、日凪と夜凪は歩いていた。公園を出てから暫くは走っていたのだけれど、暑さに力尽き、暑いと呻きながら歩いていた。こんなに暑くなると知っていたならば、公園に行こうだなんてふざけた事は言わなかった。ただ、暇を持て余した二人は友達の誰かがいるかと、少しだけ遠い公園に遊びに行っただけなのに。
お盆休みで皆んな祖父母の家に帰ってしまった。いつもなら必ず誰かが遊んでいるその公園には誰もいなくて、本当に、損した気分だ。
道路のアスファルトが熱されて、遠くにゆらゆらと陽炎が見える。まるで鉄板の上を歩いているようだと、夜凪は思う。家族で行った焼肉屋の鉄板の上が、あんな風に揺らめいていた。
「ねえ、夜凪。」
「どした?」
「暑いね。」
「暑いよな…」
意味も中身も無い会話を交わして、彼らは陽炎の方へと歩いていく。___一瞬、陽炎の中に、黒い影のようなものが見えた気がした。
首を傾げて目を擦ると、その影は直ぐに消えた。きっと暑すぎて幻でも見たのだろうと結論付けて、夜凪は首を振った。
近づいていくに従って陽炎はだんだんと薄くなり、近づいて仕舞えばそこはただの熱されたアスファルトの道だ。これがヒートアイランド現象ってやつか、と考えながら、その場所を、その足で、踏む。
「……っ、」
首筋が総毛立つ。暴力的なまでの熱量の下に晒されている筈なのに、背筋に冷たいものが走った。
それは、本能的な恐怖だ。
誰かに見られている、気のせいではなく、強烈にそう感じた。値踏みをするように、不躾な視線を、誰かが、何かが浴びせている。
振り返り、視線の方向を確かめようとした夜凪は、次の瞬間、熱された道路の上に倒れ伏した。
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