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彼は時折ヘッドホンをつけたまま店の窓から外をぼんやりと眺めている事があった。笑った時に見せる幼さは影を潜め、年齢よりもずっと上の憂いを感じる。
その日ハル君はまさにそんな状態で、ポテトは冷めていく一方だった。
「ハル君っていつも何聴いてるの?」
「え?」
「いつも持ち歩いてるでしょ? そのヘッドホン」
「あぁ……別に」
そう言うとまた口を噤んでしまった。
いつもならそこからまた会話が展開するのに。やっぱり今日の彼はおかしい。
どうにかしてあげたい、なんて思ってしまうのは私のなけなしの母性本能か、彼への恩からか。私はとにかく元気を出して欲しくて、気の利いた言葉を探していた時だった。
先に口を開いたのはハル君の方だった。
「ナミはさ、もう彼氏とはいいの?」
「え」
なんで今更?
やっと治ってきたかさぶたを見ないようにして、なるべく笑顔を作る。
「もう関係ないし」
「まだ好きなんじゃないの?」
「まさか」
「じゃあちゃんと向き合って、別れた?」
「いや、それは……」
「それってさ、逃げじゃないの」
ビリリとかさぶたが無理矢理剥がされる痛み。
なんで急にそんな事言われなきゃいけないの? やっと忘れかけていたのに。
気がつけばここしばらく鳴りを潜めていた口癖がまた口から零れ落ちていた。
「いいの。どうせ私なんかが向き合った所で結果何にも変わらなっ」
ガタン
派手な音を立ててハル君は立ち上がった。怒らせたと思っていたのに彼の口元は笑っていて。でもいつもの心の底から溢れるものじゃない。
なんでそんな痛くて苦しそうなの?
「はは、だよな」
「何? 急にどうし」
「今日は帰る」
本当に一瞬の出来事だった。
何が何だか分からないまま、その日を境にハル君はパタリと店に来なくなってしまった。
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