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ぽっかり胸に穴を開けたまま半年が過ぎた。それでも毎日過ごせてこれたのはあの時のハル君の背中が目に焼き付いてるからだ。
元彼も同時に姿を消した。どうやら事は示談で片付いたが退職したらしい。
私は恐らくもう逃げない。でいないと今度こそ本物の腰抜けになってしまう。
恋は当分無理だけれど、こんな歳でもがむしゃらに頑張ってる私を見たらハル君はなんて言ってくれるだろう。笑ってほしいな、もう一度。
「先輩、3時方向、出会いの相あり」
「え?」
思わず梓ちゃんの方を見ると、久しぶりに彼女の瞳が煌めいていた。それも束の間、来客の足音がして慌てて営業スマイルを作る。
「社長に会いたいんだけど」
「はい、お名前確認させて頂けますか?アポイントは取られて」
「んなのいらねーって。親父に会いに来ただけだよ。本当に俺の事知らないんだな。
ナミ」
心臓が止まる。
顔を上げると黒髪をなびかせ、少し大人びたスーツのハル君があの笑顔で笑っていた。隣を見ると梓ちゃんが親指を立ててウィンクしている。
「進学やめた。俺も逃げないでこの仕事やってみようと思ってさ。誰かさんのお陰。今日時間作れない?」
仕事中なのに無意識で涙が溢れ始める。ハル君は一瞬面食らった顔をしたけれど、すぐにバーカと、不躾な言葉とあの笑顔でくしゃりと笑った。
私はきっと向かい合う。
この、まだ名前のない気持ちとも。
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