こんなの絶対違う

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 ポテトをお代わりし、奢りなのを良いことにしこたま食べた彼は、コーラ片手に一息ついていた。  私はというと最初に頼んだカシオレがまだ半分以上残っている。  今冷静に思い返すと相当やばい事をしてしまったと実感せざるを得ない。30間近に控えた女が、学生を逆ナンしてしまった。顔見知りのマスターの視線も痛い。  分かる。言いたい事は分かるからどうかそっとしておいてくれ。 「でさ、なんで逆ナンしてきたわけ、オバサン」 「それいい加減やめて。私にもちゃんと名前があります」  鞄から出した名刺を差し出す。彼はなぜか一瞬目を丸くしたが、ふぅんと言ってそれをポケットにしまった。 「じゃあナミ、何で?」  呼び捨てかよ。  とりあえずそのツッコミは飲み込み、一口酒を煽った。冷静になれ。相手は子どもだ。私はニコリと受付嬢スマイルを貼り付け、大人の余裕を発動した。 「逆ナンじゃないの。ぶつかっちゃったから、お詫びも兼ねて」 「違うな」  言い終わる間も無く言葉を重ねてきた。彼は綺麗な指でストローを回すと、ニヤリと口角を上げる。 「俺、普段から大人に囲まれる事多くてさ。その手の顔は見飽きてんだよ。嘘ついてるだろ」  ドキリと心臓が軋むと同時に、ズズと小さな音を立ててコーラが空になってしまった。 「なんか溜め込んでそうな顔してるけど、そういうのって吐いたほうが楽になんない?タダ飯の礼に聞いてやってもいいかなって思ってたんだけど、ま、言いたくないんならそれで。じゃ、ゴチになりました」  そう言って彼は立ち上がってしまった。 「待って!」  シャツの裾を引っ張ったせいで後ろへつんのめった彼は怪訝な顔で私を見下ろす。浮気でショックなのは分かるが今日の私は明らかにおかしい。  でも考えてみたらこんなみっともない気持ち、吐くなら赤の他人が1番いいんじゃないだろうか。  グイッと残りのお酒を飲み干す。アルコールがいい感じに頭を麻痺させた。 「聞いてもらえますか、私の下らない話」  彼は一言、いいよと小さく笑った。
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