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「糞男だな」
「若い君でもそう思いますか」
「男見る目ないんじゃね」
「頼む、もうこれ以上傷をえぐらないで」
カランと氷が溶ける。もう何杯目になるか分からないお酒のグラスが空になった。
酒の勢いで事の顛末を話してしまった結果分かったことがある。私は彼をちゃんと愛していたらしい。そして、思ったよりもショックを受けていたようだ。目の前の子が発する糞男の言葉に胸がズキリと痛んだから。
「で、後輩にけしかけられて俺に声かけてきた訳だ」
「そうです、馬鹿らしいでしょ」
「別に。俺意外と運命論とか好きだから」
私に気遣って嘘ついてるのかな。
そう思うほど、彼は不躾な物言いとは真逆に親身に話を聞いてくれた。
「で、どうすんの? 殴り込む?」
「行かない」
「つまんね」
「私だってさ……腹立ってるよ。可能ならボコボコに殴ってケツの穴から指突っ込んで奥歯ガタガタいわせたい。でももう……傷つきたくな……あれ?」
ぐらんと一周地球が回った。おい!と叫ぶ声が遠くに聞こえる。そういえばこの子の名前、最後まで聞かなかったな。でもなんだか少しだけ、すっきりしたような……
「オッサン、ナミっていつもこうなの?」
「いや、今日は特別弱ってたみたい。彼の事相当好きだったみたいだから」
「ふぅん。ケツの穴、か……ぷっ、面白いじゃんこの人。俺が連れて帰るよ。車下で待たせてるし。住所分かる? お代置いとくから」
ふわりと体が浮く。マスターとあの子の声がぼんやり遠くに聞こえるが何を言ってるのかさっぱり分かんないや。
もしこれが全部夢なら、数日前の私に言ってあげたい。彼の家に行かないでって。
そしたら、きっとまだ私は彼と……
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