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「ほんっとーに、申し訳ありませんでした!!」
客が振り返るが関係ない。今は頭を机に擦り付けるのが先決だ。まさか出会って初めての男の子に食事を奢らせ、家まで連れ帰ってもらったなんて。
マスターに話を聞いてもまだ信じられなかった。なんなのこの子。只者じゃない。
彼は1人涼しい顔で、余程気に入ったのか山盛りのバジルポテトをかじりながら微笑んだ。
「別にいい。暇だったし、ナミの話面白かったから」
「面白かった?」
「うん」
どの辺がでしょうか。
真っ青な顔でチラリと覗くが、彼は本当に嫌そうな素振りもなく、寧ろ機嫌が良さそうだった。
「あの、お代返すよ」
「いらね。じゃあ今日奢ってよ。そんでさ、たまにこうやって話しよ」
「え?! いや、でも君まだ未成年だし、あんまり遅くなると親御さん心配するんじゃ」
ピリリと一瞬空気が凍りついた。
今私は彼の触れちゃいけない所を突いてしまったらしい。口角は上がってるが、そんな訳ないだろとでも言っているようだった。
「ナミさ、そこの会社で受付してるんだよね。俺の顔、見覚えない?」
「え?……ごめん、分かんない」
「そ、ならよかった。冷める前に食おうぜ。腹減った」
ポテトを食む彼の顔はやっぱり見覚えがない。でも年相応に何かを抱えた思春期の男子であることはよく分かった。
この日から、私と彼の奇妙な関係が始まることとなる。
毎週金曜日、決まってあの店で落ち合い取り留めのない話をした。
何回か話をするうちに分かったことがある。
彼の名前はハル。
近くの有名私立に通う高校3年生で、恐らく超がつくほどのボンボンだ。
上司のヅラ疑惑や包丁持った社員の奥方が殴り込みに来た話など何を話してもハル君はケラケラと笑ってくれる。何もかも忘れられそうな屈託のない笑顔で。
「先輩なんか最近楽しそうっすね。いい出会いありました?」
「あったかと言われれば……あったかな」
「いいじゃないっすか。先輩の口癖最近聞いてないし、目、生きてますよ」
そんな事を言われて悪い気はしなかった。
ハル君は冗談も愚痴も、こんな私の話をいつだって親身に聞いてくれた。それはまるで自分を認めてもらっているみたいで、とにかく心地いい。
いつしか毎日新しいネタを探し、金曜にあの場所へ行く事が週末の楽しみになっていた。
しかしそんな日々は長く続かなかった。
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