露店街の閉鎖

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露店街の閉鎖

20歳になったタカは以前と比べるとずいぶん社交的になっており、露店の仲間とも打ち解けて和気あいあいとやっておりましたが、何かあるとすぐキレる性格だけはあいかわらずでした。 一般にすぐキレる性格というのは二通りありまして、ひとつはキレると大声でわめきちらすタイプ。このタイプは見てくれは派手ですが基本的に臆病な人がほとんどですので、ほっておいたらいつのまにか収まるものです。 もうひとつはキレると黙り込むタイプ。実はこのタイプが一番あぶないのですが。。 ・・タカはまさに後者のタイプなのです。 タカはキレると半径20メートル以内には近寄りたくないくらい強力な殺気を放射しつつ黙り込みます。・・・そして次の瞬間には、彼を怒らせた相手は地面にうずくまることになります。 彼はキレるのに相手を選びませんし、お客相手でも平気でキレるものですから商売人としてはまったくよろしくありません。(それ以前に社会人として失格だ) で、何とかこの性格を直さねばと思いました。 「タカ。お前ももう20歳なんだからいつまでもそんなキレてばっかりいたんじゃダメだよ。もう少しおちつかなきゃ」 「押忍」 タカも本当はわかっているのです。 「僕は思うんだけど、タカがキレやすいのは栄養が偏っているんじゃないかってね。おまえはすごく好き嫌いが多いだろ?そこから直していこう」 実際、彼の食生活はひどいもので、ほっておくとポテトチップスとたこ焼きだけしか食べない。 一緒に食事に行っても食べられないものが多すぎる。 「食生活の改善だ。食べるのも稽古のうちだよ」 それからは極力あちこちに食事に連れ出し色々なものを食べさせ、偏食をなくすようにしました。 ・・またまた月日は流れ、1年後・・・ 私たちは宮城さんからこの露店街が半年以内に閉鎖されることを告げられました。 「ここは地主さんのご好意で使わせてもらってたんだけど、いよいよここにもビルが建つことになったらしいんだ。そういうわけだからお前らもそろそろ次の身の振り方を考えてくれ」 「・・・師匠。どうしますか?」 「うん。まあここで一生やっていけるとは思ってなかったからなあ。ぼちぼち次の商売を考えるいい機会かもな」 「師匠、こうなったらオレもこんどこそちゃんと就職しなきゃいけないけど、やっていけるかどうか・・・心配なんですよ」 「キレさえしなければ十分やっていけるよ。心配するな。・・・でもこれはチャンスかもしれないなあ。タカ、おまえはあんまりこの町から外にでたことないだろう?世間がちょっと狭すぎる。・・・いい機会だから僕といっしょに旅に出ないか?」 「・・・押忍?」唐突なのできょとんとしております。 「つまり一緒にアジアを旅してみないか?と言ってるんだよ」
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