月日は流れる

1/1
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ

月日は流れる

こうして私とタカの奇妙な師弟関係が始まりました。 タカとあれこれ話してみて分かったのですが、タカはいわゆるグレている少年ではなくむしろクソが付くほど真面目な奴でした。 お年寄りや体の不自由な方が何か困っていると躊躇することなく飛んでいく。 そのフットワークの軽さに感心したものです(師匠より人間出来てるんじゃないか?) 正義感も人一倍なのですが、その裏返しが宮城さんも心配する短気さにつながっている様なのです。 打ち明けた話ですが、客商売をやっているといろんな客がやってきます。 むちゃくちゃ言って絡んでくるような輩も少なからず存在します。 そんな場合でも頭を下げて、出来るだけトラブルを最小限に食い止めなければならないのが商売人のつらいところなのですが・・・タカはそれができない。 必ず揉め事を起こしてしまいます。 「タカ。お前商売やってるんだから、そんな態度じゃだめだよ」 「いいんですよ師匠。あんな奴に売るたこ焼きは無いんだから」 「だからってお前・・最初からケンカ腰で接客してどうするの・・・」 「オレ、ガチでやれば負けませんから大丈夫です」 いやそういう問題ではない。。 ・・・宮城さん!こいつちっとも言うこと聞かないですよお! 仕事の合間には一応空手を教えます。 が、実をいうと私は技の在庫が極端に少ないのです。 とりあえず基本から・・・かつて中川先生に言われたことがあります。 「冨井。お前は組手は弱いけど基本の恰好だけは上手いね」 その得意の基本と空手のコンビネーションを三つ四つ。 結局、今日に至るまでタカに教えたのはこれだけです。 「これを何百回、何千回やると強くなるんだよ」とか言って。。 自己鍛錬に優れたタカは本当によく稽古します。 現在でも一日2時間の稽古をなにがあろうと欠かすことがない。 ちょっと風邪をひいたとかで30分のトレーニングをサボろうとする私とは大違い。 ・・・・そして一年の月日が流れ。。 私たち師弟にもひとまず別れのときがやってきました。 以前より計画していたバンコクで土産物店を開くために、私はかの地へ渡ることになったのです。(あの中田さんとの共同経営です) 「タカ。僕はバンコクへ行くけどたまには帰ってくるからな。しっかり稽古しろよ」 「押忍。師匠。実はオレ・・・就職することになりました。Mスーパーです」 「本当か!」・・中堅のスーパーマーケットです。これは手放しで喜びました。 「タカ。こんども客商売だけど短気をおこしちゃダメだよ」 「押忍」 「それからお前は世間が狭すぎるから本を読め。何の本でもいいからたくさん読め。本は少し読むと毒になるけど、たくさん読めば薬になる。そういうもんだ」 「押忍」 「師匠として教えることはそのくらいだ。がんばれよ」 「押忍。師匠もバンコクでの商売、がんばってください」 「おお。がんばるからな。じゃあまたいつか会おう」 そう言いながらも、彼が真っ当に就職するのであればもう会うこともないか・・・ と、考えておりました。 ・・・・そしてさらに2年後・・・・・ 
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!