転校生。

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 四つの授業と昼食を終える頃には、控えめな敵対心を抱いていた女子たちもすっかりマリアと打ち解けて、笑いあっていた。  ほら、ここ座って・・・と言うと、女の子の仲良しグループのリーダーがマリアを自分の席の前に座らせる。  美しい顔立ちと優しい声、コロコロと笑う表情が皆の心を溶かし、(くすぐ)ったいような、嬉しいような・・・  何とも言えない幸福感で包み込んでしまう。(こぼ)れる様な笑顔で話しかけられると、女の子達でさえドキドキして、顔を赤らめてしまう。聖母のような眼差し。  時折見せる、十四歳にしては大人びた、色気を帯びた表情・・・。かと思えば、幼い子供の様に無邪気に笑う。  まるで、はじめて友達が出来たような、興奮と喜びが伝わってくる。次第に集まりだしたクラスメイトが、彼女を取り囲んで()わる()わる話しかけている。  マリアは、その一言一言に目を丸くし、嬉しそうに肩を揺らして笑う。  クラスメイト達が、マリアと話をしては、笑いあっているのを少し離れた自分の席で肘をついて眺めているノア。  マリアは、ふとその視線に気が付き、背もたれに寄り掛かるように体を反らせると、クラスメイトの頭の間から顔を覗かせて、ノアを見た。柔らかく艶やかな髪が彼女の動きに合わせてふわりと踊った。  二人の目が合う。  マリアは優しく微笑む。ノアの耳の奥で心臓が(やかま)しく鼓動している。  耳が熱い。自分の顔が真っ赤なのが分かる。甘い幸福感に体の自由が奪われる。  一瞬・・・だったかもしれない。だけど、随分長い間見つめあっていた気がする。ノアが、痺れる頭で、ずっとこのままでいられたらいいのに・・・なんてことをぼんやり考えていると、クラスメイトがマリアの肩をトントンと叩き、再び彼らの中に引き戻してしまった。  さっき、あの瞬間は自分だけに向けられたあの笑顔で、マリアは代わる代わる皆に向き合い、コロコロと楽しそうに笑っている。  ノアは、自分に向けられたあの、一瞬で心を引き去った笑顔の余韻の中、心に湧き上がる幸福感と嫉妬に翻弄されながら、その姿を眺めていた。
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