転校生。

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 夕食の時、興奮しながらノアは、今朝の転校生の少女の話をした。両親はたいそう驚いていた。  小さいながら活気のあるこの街だが、移り住んでくるものは少ない。出ていくものも少なかったが。  それにこの小さい街だから、移り住んでくるものがいれば街中で話題になり、皆で歓迎する。サン・プリュイとはそんな街だった。 「この街に移り住んできた家族は居ないはずだけどなぁ。ノア、その子・・・どこに住んでいるんだい? 」  ノアの父、ドニがノアに聞く。ドニは、この街の四代目に当たる靴職人で、一人一人の脚に合わせてとても繊細な仕事をする。石畳の固く起伏の多いこの街の人達だけでなく、遠方の都市から観光で訪れた人達でさえ、ドニの靴に出会ったならもう他所(よそ)では靴は買えないという程、ドニが作る靴は履き心地がよく、そして丈夫だった。  ドニは、街中の人たちの脚の形、癖を把握していた。口数は少ないが、温厚で、頼りになる男だったから、街の皆からの信頼も厚い。  ノアの母エマは、ノアに良く小言を言うが、まあ、それは母親という生き物の特性なんだとノアは諦めていた。  でも、ノアはそんな母が大好きだ。  なんだか、いつも楽しそうに笑っている。掃除、洗濯、料理をしながら良く鼻歌を歌い、クネクネと踊ったりする、明るく活発な母親だった。  ノアは何となく、マリアが森に住んでいることを言ってはいけないような気がして、聞くのを忘れたと嘘をついた。その事について父も母も、それ以上は聞かなかった。 「そんなことより、どんな子なんだい? 可愛いのかい? 」  母のその一言で、ノアは真っ赤になった。父も、母も、その様子を見て笑った。食卓を照らすロウソクの灯が、楽しそうに揺れている。  好きな子が出来たら、その子を守ってやるんだぞと、父はノアの頭をポンポンと触って静かに言った。 「うん」  とノアは頷く。  優しく、(たくま)しい、父の大きな手。ノアは、大人になったら父の様になりたいと思う。
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