42人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
ノアは、布団に潜り込むとサイドテーブルに置かれたランプの灯をフッと息を吹いて消した。黄色味をを帯びた暖かい景色はオイルの燃える幽かなにおいと共に消え、右手の小さな窓枠に切り取られた青白い月夜が目を覚ます。
薄い雲の綿を腰に巻いた月を眺めながら、ノアはあの森に想いを馳せる。
あれほど、怖くて仕方がなかった森が今、ノアにとって特別な場所になっていた。
ノアは想像する。心の中で月の光が届かない森の中を歩いている。遠くに聞こえるオオカミの遠吠え、梟の声が頭上に響く。
港へ続く道を逸れて、森の中に分け入っていく。バキバキと古枝を踏む音が響く。やがて見えてくる古くて大きな、石積みの城のような館。
壁にはツタが這い、キキっと声を上げながら蝙蝠が飛んでいる。窓にはうっすらとランプの明かりが見え・・・。
どうにも、大人たちから聞かされていた森のイメージとマリアが結びつかない。本当にあんなに怖い森の中に住んでるの?もしかしたら、森は全然怖くない所で、ただ、子供が一人で行かないように作り話をしているのかも知れない。
実はあの森の中にはいくつも家があって、ここの皆みたいに優しい人達に囲まれて暮らしてるのかも。
そうだ、そうに違いない。そうじゃ無ければ、あんな、マリアみたいな女の子が生きていられる筈がない。
そう結論付けて、ノアの心は少しホッとする。また明日になれば、あの笑顔、あのコロコロと楽しそうに笑う優しい声に会える。
そう思うと、ノアの体中の細胞が嬉しくなって、ベッドの中でバフバフと足をばたつかせた。
ノアは、月を眺め、呟いた。
「お休み。また明日」
最初のコメントを投稿しよう!