転校生。

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 ノアは、布団に潜り込むとサイドテーブルに置かれたランプの灯をフッと息を吹いて消した。黄色味をを帯びた暖かい景色はオイルの燃える(かす)かなにおいと共に消え、右手の小さな窓枠に切り取られた青白い月夜が目を覚ます。  薄い雲の綿を腰に巻いた月を眺めながら、ノアはあの森に想いを馳せる。  あれほど、怖くて仕方がなかった森が今、ノアにとって特別な場所になっていた。  ノアは想像する。心の中で月の光が届かない森の中を歩いている。遠くに聞こえるオオカミの遠吠え、(ふくろう)の声が頭上に響く。  港へ続く道を()れて、森の中に分け入っていく。バキバキと古枝を踏む音が響く。やがて見えてくる古くて大きな、石積みの城のような館。  壁にはツタが這い、キキっと声を上げながら蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。窓にはうっすらとランプの明かりが見え・・・。  どうにも、大人たちから聞かされていた森のイメージとマリアが結びつかない。本当にあんなに怖い森の中に住んでるの?もしかしたら、森は全然怖くない所で、ただ、子供が一人で行かないように作り話をしているのかも知れない。  実はあの森の中にはいくつも家があって、ここの皆みたいに優しい人達に囲まれて暮らしてるのかも。  そうだ、そうに違いない。そうじゃ無ければ、あんな、マリアみたいな女の子が生きていられる筈がない。  そう結論付けて、ノアの心は少しホッとする。また明日になれば、あの笑顔、あのコロコロと楽しそうに笑う優しい声に会える。  そう思うと、ノアの体中の細胞が嬉しくなって、ベッドの中でバフバフと足をばたつかせた。  ノアは、月を眺め、(つぶや)いた。 「お休み。また明日」
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