森に棲む者。

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 今朝のノアは早起きだった。いつもは夜、星を眺めたり、本を読んだりして夜更かしをするから、いつも朝はギリギリになる。だけど、今日は早くから目が覚めてしまった。  マリアに会いたい。早く学校に行きたくて、心がムズムズする。服を着替え、階段を降りると、母が用意していた朝食のいい匂いがしてきた。  今朝は、ベーコンと目玉焼き、紫アスパラガスとレタスのサラダ、そしてホットミルク。それに、毎朝いい匂いを漂わせているパン屋『シェ☆ジュリアン』の、良質なバターをふんだんに使ったひし形のクロワッサンがテーブルに並べられている。  ノアは、この店のクロワッサンが大好きだった。 「あらあら、今日はやけに早いじゃない」  ノアの母が笑って言う。ノアは、ん。と小さく返事をするとクロワッサンを一つ、つまんでかぶりついた。薄い膜がパリっと割れてバターの香りが口いっぱいに広がる。至福の瞬間(とき)。  ノアは、すっかり平らげると身支度をして急いで家を出る。まったくこの子ったら色気づいちゃって、と母は笑った。  通りに出て、ノアが石畳の道を駆け下りていくのを優しく見守っていた父は、一つ大きく伸びをすると玄関右手の工房に入っていった。  ノアは店先に出ている街の人たちとあいさつを交わしながら、石畳の道を駆け下りていく。  毎年、春の初めに行われる祈願祭のための飾り付けが始まっている。街全体がお祭りを前にそわそわしている。  シェ☆ジュリアンを通り過ぎて、トンネル状の建物の下を(くぐ)ると右手に時計店がある。 「お、ノア。今日はやけに早いじゃないか」  時計店『オールージュ・エ・モントル』の主人、シモンが言う。ノアは、ニッと笑ってシモンにおはようと言うと時計店の角を右に曲がり勢いよく階段を下りていく。階段の一番下には、鍛冶屋の自慢の看板がアーチ状に掛かっている。  この階段を抜けると、その先は崖。建物に囲まれた視界が一気に開ける。空に羽ばたいていけそうな気持になる。ノアはこの場所が好きだ。  階段を一気に下った突き当りを左に折れる。崖に沿って緩やかに下っていく坂道。
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