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その先には、ジョゼフの人形店が見えてくる。そして、そのショーウィンドーの前には、いた。
駆け寄ってくるノアに気付き、マリアが手を振る。昨日の帰りの約束。
ノアに微笑み手を振るマリアの笑顔が、穏やかな朝日に照らされてキラキラと輝いている。
その愛らしい姿に、ノアは思わず足を止め、見惚れてしまう。
「おはよう。ノア君・・・?」
マリアの優しい声をうっとりと聴きながら、目の前の少女を見つめるノア。
「どうしたの?」
そう言って、マリアはクスクスと笑う。ノアは我に返り、顔を真っ赤にしておはようと小さく呟いた。マリアの、心を射抜くような桑の実色の大きく澄んだ瞳で見つめられると、ノアは全身の力が抜けて蕩けそうになる。
二人は並んで、朝日の中を学校へ向かって歩く。マリアはノアの小さい頃の話や、家族の事など、色々な事を聞きたがった。ノアのその一言一言に楽しそうに相槌をうち、驚き、喜んだ。
コロコロと変わるその表情、本当に嬉しそうなマリアを見ているだけでノアは、どうしようもないくらい幸せな気持ちになった。
「おれ、かあちゃんにいっつも怒られてるよ」
そう、うんざりしたようにノアが言うと、マリアは
「大変だね。でも、楽しそう」
そう言って、肩を揺らしてクスクスと笑う。鳥の囀りのような、優しく澄んだ声。
ノアの体中を駆け巡る、甘い、そわそわした気持ち。どうにも意識してしまい、体の動きがギクシャクしてしまう。心臓の鼓動がどんどん早くなる。
もう、どうにかなってしまいそうだった。
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