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祈願祭の前日。今日は生徒たちにとって最高の一日。何故なら、午前中は明日の祈願祭ために、通りの向こうの湖の畔でミモザを摘み、花飾りを作る課外授業だから。皆でお弁当を持って、昼はそのまま湖畔でピクニックになる。
サン・プリュイの祈願祭は、街中に春を告げるミモザのリースが飾られる。
そして、午後は讃美歌の最後の練習。だから、教室で教科書相手の退屈な授業は一つもない。
クラスメイト達は、皆、どんなお弁当を持ってきたとか、誰が一番花飾りをたくさん作れるか、なんて話をして盛り上がっている。
一通り、気難しい担任の注意事項に耐えた後、各自解散し、ミモザの花摘みが始まった。
皆、思い思いに湖の畔に散らばっていく。湖の西側のミモザは、街の人たちが数年前に植えたもので、まだそれほど大きくなっていないから生徒たちの手でも届く。
教師に聞きながら、ハサミで丁寧に枝を切っていく。
ノアは、辺りを見回す。昨日、聖歌の練習が終わってから、マリアの周りにはいつも人が集まっていて、二人きりになれない。ノアの心は、マリアへの想いがどんどん大きくなって、もう、今にも破裂しそうだった。
行き帰りだけじゃ、全然足りない。他の人に向ける笑顔を自分だけのものにしたい。
想いはどんどん膨れ上がる。
クラスの女子だけでなく男子までも、親し気にマリアと呼ぶ。それなのに、自分は、二人きりで歩いている時だって『マリアさん』なんて呼んでるし・・・。
クラスメイト達と凄く楽しそうに笑い合っているマリアの様子を見て、ノアは不安になる。
自分と一緒にいる時、あの子はこんなに楽しそうに笑ってるかな。もっと、静かで、声だって小さくて・・・。ひょっとしたら、一緒にいて楽しくないのかも。
そんな思いが心をよぎる。急に不安になり、その場にしゃがみ込んでしまいそうになる。
ノアの視界の先でマリアはクラスメイト達と楽しそうに話している。マリアは相手を見つめ、楽しそうにコロコロと笑う。
誰にでも、あの零れそうな優しい笑顔で微笑むマリアに、ノアはどうしようもなく惹かれ、クラスメイトに嫉妬していた。
他の男子に取られたくない。譲れない。そう思った。
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