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店の前でノアは立ち止まる。そして、そのショーウィンドーに飾られている、一体の人形に見惚れる。
これも日課。
その人形は、黒目がちな桑の実色の瞳で通りを見つめ、優しい笑顔をこちらに向けている。ノアは両手をガラスにつけ、覗き込む。
「おはよう」
少し照れ臭そうに呟くと、再び走り出す。
ガラスの向こうの人形の瞳には、走り去っていくノアの姿が映っていた。
遠くで雷鳴が喉を鳴らしている。
ワクワクする春の香りをかき消すように、湿った重い風が石畳の小路を蹂躙するように広がり這いずり回っていく。
ノアが学校に着いてまもなく、稲妻が大気を裂いた。
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