人形作りのジョゼフ。

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 マリアは今日も、ガラス越しに外を眺めている。長いまつげに縁取られた愛らしい、桑の実色の瞳には石畳の美しい街並みと、屋根の向こうの抜けるような青空が映り込んでいる。  この街の家庭の多くは、子供が14歳になる半年ほど前にジョゼフに人形作りの依頼をしに、店を訪れるが、それ以外で彼の店にやってくるものは殆どいなかった。  ジョゼフにしても、必要なものを買いに出るくらいで、周りの人たちとかかわろうとはしなかった。  マリアは毎日、外をじっと見つめている。  街の人たちは誰も、彼女に関心を抱くものは居なかった。ただ一人、ノアを除いて。  初めてマリアが、ショーウィンドーに飾られた日の夕方、学校帰りのノアはふと足を止めた。まるで雷に打たれたように、ノアの体中を甘い電流が走った。ノアは日が暮れるまで彼女を見つめていた。    以来、ノアは毎日、学校の行き帰りに必ずマリアの顔を覗き込み、照れくさそうに話しかけてくれた。  街の景色を映していたマリアの瞳は、次第にノアを探すようになった。  ただの人形だったマリアに心が宿った。  動かない木製の体の中で、マリアの心はノアを求め、泣いた。  だけど、優しい笑みをたたえたその美しい顔は、表情を変えること無く、外の景色に向かって、いつもと変わらぬ微笑(ほほえみ)を向けていた。  生まれたてのマリアの心は、深い悲しみと絶望を知った。それは、永遠に終わることのない苦痛・・・の筈だった。
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