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二つの人影が打ち付ける雨しぶきの中に消えると、重く垂れさがった雲はいつの間にか姿を消し、再び空は晴れ渡っていた。雨上がりの石畳はキラキラと輝き、店の天井には、濡れた石畳に跳ね返された陽光が、ユラユラと水面の様に映り込んでいた。
ジョゼフは、店の中に妙な違和感を覚える。ふと、ショーウィンドーに目をやると、いつも座って外を眺めていたマリアの姿が消えていた。
ジョゼフは、呆然と立ち尽くしていたが、やがて膝をついて両手で顔を覆うと、肩を震わせて泣いた。
あの日、まるで五十年前のあの日と同じだった。
彼の心は再び、愛娘マリィを失ったあの日に引き戻されてしまった。
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