覚悟と願い。そして・・・。

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 やがて、火は消え、炭と化した館の残骸の中から二十歳(はたち)そこそこ位の一人の女性の亡骸(なきがら)が発見される。傷一つない、美しく瑞々しい肢体を横たえ優しい微笑みを湛えた姿は、見る者の心を奪い去ってしまった。  男達は(しば)し、言葉を失い、立ち尽くす。そこにいる誰もが、これが魔女の最後だとは知る由も無かった。恐らく、その美貌からマリアの母なのだろうと思った。  何らかの理由で、囚われの身だったか、或いは、この館が魔女の棲むところではなかったのかは分からないが、今、ここに魔女のいる気配はない。  危機は去った。そう安堵する男達。  だが、泣き崩れるノアの様子と、この若く美しい女性の死がマリアの死を容易に想像させた。  ノアはふと、女性の腕の中で何かがキラリと光るのを見つけ、這うようにして近寄る。  愛おしいものを護るように、胸元に添えられた両手で包まれたそれは小さな懐中時計だった。  人形に魂を宿す懐中時計。  ノアにはそれがマリアのものだとすぐに分かった。  涙で滲む景色の中、儚い光を放つその小さな時計を、ノアは震える手でそっと取り上げる。あふれ出た涙が文字盤に滴り落ちて、キラキラと光って見えた。その澄んだ輝きが、コロコロと笑うマリアの笑顔みたいだった。  ノアはそれをギュっと胸に押し付け、(うずくま)り、何度も何度もマリアの名を呼び、泣いた。  ノアの心の中で、マリアがノアの名を呼び、愛らしい笑顔で笑う姿がリフレインする。澄んだ歌声みたいな声でノア君と呼ぶマリアの姿。そしてあの優しくて甘い匂いが胸の中を駆け巡り、ノアの心を引き千切る。    自分の身を犠牲にして、愛する者を守ったのはマリアの方だった。
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