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昴が、鷹である亜鷹と会話できる様になったのは14歳の時だった。
真夜中に突然激しい動悸とめまい、それと身体中の血管の中を何かが這いずり回る様な感覚に襲われた。
Ω性特有の抗う事のできない宿命のようなもの、所謂「発情期」がきてしまったのだ。
この世の中には男女の性の他に第二の性と呼ばれるものがある。
α、β、Ωとよばれる三つの性が存在するのだ。
人口の約10%から20%しかいないエリート層がα、一般的で人口のほとんどを締めるβ、そのどちらよりも稀少なのがΩだ。
このうちαの男女、β同士の男女間では女性のみが妊娠するのだが、Ωだけは特別だ。
Ω性には周期的にヒートと呼ばれる発情期が訪れる。
それがくると男性でも中が濡れ、普段は直腸の奥にある女性の子宮と同じ機能を持った生殖器が降りてくるのだ。
それにより男性でも妊娠できるという特異な体質になる。
しかし、厄介な事にその発情期中は繁殖する行動以外の事ができなくなる。
つまりセックスのことしか考えられなくなるのだ。
そして発情期中は体内から分泌される独特のフェロモンのせいで他のαやβを惹きつけやすくなる。
自分の意思とは関係なく、だ。
そのため多くのΩがレイプなどの被害に遭い、またその強烈な刺激に抗えないαやβも冤罪の被害にあった。
それを未然に防ぐために開発されたのが、Ωの発情を抑える抑制剤だ。
個人差もあるので完全に抑えることはできないのだが、大抵のΩはそれを服用し平穏な日常をおくっている。
しかし昴の家には抑制剤など常備していなかった。
わけのわからない熱と感じたことのない堪え難い疼き…何もしていないのに後孔が濡れ、下着をぐっしょりと湿らせた。
吐く息は荒くなり、服が擦れるだけでゾクゾクとしてしまう。
両親はいなかった。
物心ついた時には母親は既にいなかったし、父親も家を留守にしがちだった。
頼る者は誰もいない。
昴はその状況を孤独な状態で耐えなければならなかったのだ。
しかし、鷹小屋には腹をすかせた鷹がいる。
鷹匠を目指している昴にとって鷹の世話は訓練の一部だし、何より昴にとって家族の様な存在だ。
彼らは繊細な動物なため、食事の時間などは決められた時間にあげなければならないし、まだ幼鳥の亜鷹には昴の手自ら餌を与えなければならない。
何とか理性を働かせ、這うように鷹小屋まで来ると腹をすかせた鷹たちに餌を与える。
しかしなぜだか亜鷹だけは餌を食べようとしなかった。
食事が遅れたことを怒っているのか大好物の餌には目もくれず、昴をジッと見つめているばかり。
「どうした亜鷹…食べないと…大きく、なれないぞ」
外に出してもらえないことを不満に思っているのか。
それとも食事が遅れたことを不満に思っているのか。
急に自分の情けなさに涙が溢れた。
自分がこんな忌々しい性であるばっかりに、外に連れ出してやることもできない。
そしてまた自分も父親と同じ運命を辿らなければならないことへの憤りと不安。
「ごめんな」
力なく謝ると、その場にズルズルと崩れ落ちた。
その時突然頭の中に誰かの声が聞こえてきた。
「昴…この時を待っていた」
と。
それは優しくて力強くて、それでいてなんだかとても安心できる懐かしい声だった。
その日を境に昴に変化が訪れた。
亜鷹の次の行動や狙ってるものなどが予測できるようになったのだ。
鷹と鷹匠の絆は深い。
特に亜鷹は小さい雛の頃から世話をしていたため、昴を親鳥のように思って懐いていたのは確かだ。
しかしまさか鷹と意思疎通までできる様になるとは思いもよらなかった。
今では亜鷹が成鳥していくにつれて、会話もできる様になっている。
目や仕草で亜鷹の言いたいことが頭に入ってくるのだ。
「もうすぐアレだろ」
亜鷹はまたクルクルとしためで昴をじっと見つめてきた。
「そうだね」
「薬がいるんだろ」
「う〜ん、そうだね」
曖昧に返事をすると、真面目に聞け!とでもいうように翼で顔を覆ってくる。
「もう、やめろって!」
顔にかかる羽の感触がくすぐったくて昴は眉を寄せた。
「いい加減薬を買え」
亜鷹は賢い。
昴が定期的に発情期になるのを理解している。
そしてそれに対して抑制剤というものがあることも。
それを敏感に察知しているのか、こうして時期が近づいてくると薬を買えと促してくるのだ。
しかし、昴にはそれが簡単にできない理由があった。
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