夏の裏切り

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フォルダから取り出した、呆れるような池袋の人混みのスナップをネット空間に放り投げる。 間髪入れずにメッセが飛んでくる。 「そうこれ!これだよこれ!」 浮かれた文面には角度の違う池袋の人並みが添付されている。 あたしは口を尖らせてメッセを返す。 今度は渋谷の夜景を添えてだ。 「今夜行く!今夜!」 忌々しい返事が間髪入れずに返ってくる。 隣でウーロンハイのグラスを傾ける同窓生に愚痴る。 「なんでたまの休みに田舎に帰って来たあたしが、東京に遊びに行った同級生に東京の写真送んなくちゃいけない訳?」 スマホを睨むあたしのグラスに焼酎を足してマドラーを突っ込む旧友。 「まあまあ。都会暮らしのアンタには見飽きた都会でも。田舎に残ったあたしらには、こんな機会でもなけりゃ行けない場所なんだ。多めに見てあげなよ」 とりなす旧友の嫁いだ家には仏壇が有り、お盆には来客が絶えない為嫁の彼女は家を離れられない。 日頃あたしにストレスだけを溜め込んでくれる人混みを楽しんでいる友が居る。 ウーロンハイを煽るあたしに、スマホのバイブ音。 「まだまだ遊び足りないからもっと人の多いとこ教えてー」 折角懐かしい友達と会えると勇んで来たあたしに肩透かしを食らわせた友達。 むかついたあたしはフォルダの一つを丸ごと送りつける。 56da13c5-1b34-49cc-a1fe-043ed18b56e1 「なあに?又?」 問う隣に笑顔で答える。 「めんどくさいから沢山送ってあげたよ」 満面の笑みを返して皿の上の好物のハタハタの卵をつまむ。 送ったフォルダにはあたしが2年前東京に行ったばかりの頃、物珍しさに撮りまくった人混みの写真が詰め込んであった。 容量が、どれだけあったか。怖くて確かめた事はなかったが。 (手ひどい夏の裏切りへのお返しだよ) 酔いも手伝って今夜のあたしは意地が悪い。
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