覚悟の表裏

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覚悟の表裏

「それじゃあ、行ってくる」 そう告げた君の顔。 いつもと変わらないその笑顔。 私には分かる、私だから分かる。 君の笑顔には少しの「悲しみ」が含まれている事。 もう取り返しのつかない覚悟。 その覚悟を私は踏みにじる事もできた。 ただ一言、「行かないで」と。 無理矢理取り返しをつけさせる事もできた。 その筈なのに。 もう彼に会えなくなると分かっていたのに。 本当は行かないでほしかった。 ずっと傍に居てほしかった。 それでも私は止めなかった。 後悔すると分かっていたのに。 だから私は精一杯の虚勢で見送った。 「行ってらっしゃい」と。 必ず帰ってきて、とは言わなかった。 言えなかった。 言ってしまったら私が壊れてしまいそうで。 私はちゃんと笑えていただろうか。 笑顔で送り出せただろうか。 彼の心に残る「最後の私」が、笑顔でありますように。 そんな願いを、あの「行ってらっしゃい」に掛けた。 「なのに、何で戻って来ちゃうかなぁ」 「何だよ、嬉しくないのかよ」 「そりゃ嬉しいに決まってるでしょ」 「なら何だってんだよ」 「全くもう!」 抱き締めて、耳元で囁く。 「私の覚悟の分、一生かけて返してもらうからね」 私は、今が幸せだ。
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