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彼女はウソつき 後編
スズメちゃんはどんな思いを抱かえてこの街に転校してきたのだろうか……
みんなと変に壁を作り、必要以上に関わることを避けていた。
それはきっと…お母さんのことがバレて自分から人が離れいき、また一人ぼっちになったとしても傷付かないようにしたかったんだ。
俺に憎まれ口を叩いたり、急に冷たい態度を取ったのだってきっと……
そんなことも知らずに、俺はスズメちゃんの心に土足で入り込もうとした。
トオギ君だって……
私のこと知ったら離れていくよ─────
───────離れねえよ。
俺は本気だって言っただろうがっ!!
駐輪場にはもうスズメちゃんの自転車は無かった。
まだそう遠くには行ってないはずだ。
俺はスズメちゃんを追いかけようと自転車を猛スピードでこいだのだが、学校を出てすぐにイヤな音がした。
このタイミングでチェーンが外れてしまったのだ。
しかも後輪の方だ。こんなの工具を持ってないと直せない。
「マジかよ?!くっそう……」
こないだ自分で新しいのに変えたばっかりだったのに。緩んでいたのかもしれない。
俺は自転車を空き地に放り投げ、全速力で走った。
暑っ……こんな中走るなんて自殺行為だ。
海岸沿いの道の遥か向こうに自転車をこぐスズメちゃんの姿が見えた。
4百…いや、5百mはあるだろうか……
スズメちゃんの前方にある信号が赤になった。
追いつくチャンスだ。
走る度に全身から汗が吹き出す。
余りの暑さに足がつりそうになってきたのだが必死に走った。
もうすぐのところまで追いついてきて名前を呼んだのだが、俺を見たとたんスズメちゃんは逃げた。
「待てこら───っ!これ以上走ったら俺死んじまうだろっ!」
ダ、ダメだ……もう走れねえ。
俺は道の脇にあった草むらに仰向けになって寝転がった。
頭上には抜けるような青空が広がっていて、まだまだ元気な蝉の鳴き声がうるさかった。
暑さと息切れで、頭がクラクラする……
意識が飛ぶかもって思った時、頬っぺたにヒンヤリと冷たい感触がした。
「死なれたら困るから飲んで。」
スズメちゃんが自販機で買ったスポーツドリンクを持って立っていた。
予定では落ち込むスズメちゃんを俺が優しく慰めるはずだったのに……
これじゃあ逆だろ、逆。はあ……
頂いたスポーツドリンクをありがたく飲んでいると、スズメちゃんも草むらに腰を下ろした。
「トオギ君も私と距離置いていいよ。もう散々味わってきたことだから。」
「強がってんじゃねえわ。このウソつきが。」
ペチっとスズメちゃんの頭を叩いた。
「俺は今一人にされたら泣くからな。もう逃げんなよ。」
「なにそれ…なんでトオギ君が泣くのよ?」
スズメちゃんは可笑しそうに吹き出した。
やっぱりスズメちゃんには笑顔が良く似合う……
「よし、大分落ち着いた。行こう。」
「……なに?どこ行くの?」
「連れて行きたい場所がある。」
俺はスズメちゃんの自転車にまたがり、スズメちゃんを後ろに乗せてペダルをこいだ。
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